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小ネタ
心の奥まで覗き込んで その後
「さっちゃん、どれがいいと思う?」
 
パソコンのディスプレイを真剣に見つめる東雲は、佐々谷を呼び出し尋ねた。

「どれと言われましても……」

困ったように眉を寄せる佐々谷は、東雲にパソコンのディスプレイを見せられ言葉を詰まらせる。

「なんで首輪を買おうとしてるんですか? また犬でも飼うおつもりで?」
「やだなー、このあいだ新しい子飼い始めたじゃん。ほら、壮吾君」
「あー、そういうことですか。よく見たらこのページ、SMグッズ売ってるサイトですね」
「本当は壮吾君に選ばせてあげたいけど、今どこかに行っちゃってるからなあ。ねえ、壮吾君って今何してるの?」
「両親や友人に電話させてます。急に失踪したら怪しまれますからね」
「そっか、じゃあまだ時間かかるかな。それで首輪なんだけど、これとこれどっちがいいかな?」

東雲が指をさすのは、どちらも赤い首輪だった。一目見ただけでは違いはよく分からないが、目を凝らせば些細なデザインの違いがある。

「どっちも一緒じゃないですか?」
「全然違うよ、この金具の部分とか」
「そうですか? 私にはよく分からないですね。別にあの男につけるんだから、どっちでもいいと思いますが」
「アハハ、さっちゃんもしかして嫉妬してる?」

ニヤつく東雲に見つめられ、佐々谷の顔は赤く色づいていく。

「さっちゃんって分かりやすいなあ。心読まなくても分かっちゃうよ」
「違います、私は、あんな男に嫉妬なんて……」
「本当に? さっちゃんも僕に首輪つけてもらって、飼って欲しいんじゃないの?」
「そ、それは……ないこともないですが……」

否定も肯定もできなくて、佐々谷は顔を赤くしながら言葉を詰まらせる。すると東雲はそんな佐々谷の頬を撫でた。

「さっちゃんは責任感強いから、会の運営とかしないといけないし、そんなことできないよね。からかってごめんね」
「そんな、謝らないでください。私は東雲様の近くにいることができるだけで、幸せですから」
 
佐々谷の言動と心には矛盾が一切なく、それが嬉しくて仕方ないのか東雲はパソコンを放り出すと佐々谷抱き着いた。細い腕が佐々谷の首に回され、小さな体が佐々谷の体躯をひしひしと抱き締めている。

「ねえ、さっちゃん」
「なんですか、東雲様?」
「さっちゃんの耳の裏、なんだかおじさんみたいなにおいがするね」

東雲は無神経にそう言って、佐々谷の耳の裏に顔を近づけながら、ヒクヒクと鼻を動かした。佐々谷はせっかくのいい雰囲気を壊され残念がる気持ちもあったが、東雲にどう反応すればいいのか分からず困惑していた。

「加齢臭かな? さっちゃん今年で何歳だっけ?」
「さ、三十五です……東雲様、そんなもの嗅がないでください。においが移りますよ」
「僕このにおい好きだよ。さっちゃんのにおいって感じがして」

加齢臭を自分のにおいと言われ、喜ぶべきか悲しむべきか、佐々谷は複雑な感情を抱く。だが嬉しそうな東雲の顔を見ていると、そんな些細なことはどうでもよくなってきた。

「東雲様、そろそろ首輪選びましょう」
「えー、もっとさっちゃんのにおい嗅いでたいな」
「三時から集会が入ってるんです。遅れるわけにはいかないんですよ」
「そっか、しょーがないね。じゃあ僕が選んだ二つの中からじゃなくて、さっちゃんが一番つけられて嬉しい首輪選んで」
「わ、私がですか……分かりました」

パソコンを拾い、東雲の隣に座る佐々谷は、真剣な顔でディスプレイを見つめる。その様子を横から覗き込み、東雲は何も言わずに佐々谷に寄り添っていた。

終わり


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あきゅろす。
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