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小ネタ
嘯く右手 番外編
久々の休みにもかかわらず、俺はブロウの家で昼間から酒を飲んでは駄弁っていた。

貴重な休みをそんなことで潰すのかと言われそうなものだが、俺は独り身、ブロウは奥さんと離婚調停中で、誰も俺たちに文句をつける者はいない。

「なあ、俺のどこが悪かったのかな?」

ブロウはなんの脈絡もなくそう言った。きっと別れた奥さんのことについてだろう。

「なんだよ、未練はないって言ってなかったか?」
「別に俺も気にしてるわけじゃないが、やっぱり別れる理由くらいは知りたいだろ」
「そうか? まあ俺に言わせれば、デリカシーのなさが原因じゃないかな」
「デリカシー?」
「そう、デリカシー。例えば可愛いウサギを見て『グレイビーソースをつけたらうまそう』とか言ったりな」
「そんなこと言ったか?」
「言ってた」

ブロウは過去の記憶を遡っているのか、目を瞑って顎に手を当てている。俺はそんなブロウを横目に、これで二本目になる酒瓶に手を伸ばし、グラスに注いだ。

一口飲むと、生温かい液体が口内を満たし、苦みと不自然なほどの甘味が味覚を刺激した。あまりうまいとは言えないが、安酒に文句をつけるほど非生産的なことはない。

口直しにナッツへ手をつけようとすると、ふと煙草の臭いが漂ってきた。

隣を見ると、深い思慮の海から帰ってきたブロウが、煙草を咥えライターで火をつけていた。深く息が吐き出され、紫煙が一筋の帯をつくり、やがて空気と混じり合って消えていく。

その様子をボーっと見ていた俺に、ブロウは再び話しかけてきた。

「そういえば最近釣りですごい穴場を見つけたんだ」
「へー、一体どんなところなんだ」
「よく釣りに行ってた川があるだろ? そこからそう遠くない場所だよ。すごいんだぜ、こんな大きなマスが三匹も釣れたんだ」

ブロウは嬉しそうに両手を広げて、釣り上げたマスの大きさを教えてくる。三十近い男のそんな子供っぽい挙動に、俺は笑うしかなかった。

「じゃあ今度連れて行ってくれよ」

俺の言葉にブロウが答えようとした途端、電話のベルがそれを遮った。

不満そうな顔でその電話に出たブロウだが、徐々にその顔は険しくなっていく。いつも能天気なブロウがその顔をする時は、決まって厄介な任務を与えられた時だった。

やがて電話を終えたブロウが俺の方を振り向き、電話の内容を教えてくれた。緊急の任務が入ったので、二人一緒に本部へ来てほしいとのことだ。

電話をかけてきた相手の口ぶりから、どうも一筋縄ではいかない仕事のようだ、とブロウはつけ加えた。

「なんだろうな。まさか例の麻薬密造組織でも壊滅させろって任務じゃないよな」
「いや、その可能性は高いと思うぜ。奴ら最近は私設軍隊なんてつくり始めたんだ。そろそろ潰し時だろうな」

ブロウのいつになく真面目な様子に、俺は思わず笑いそうになるのを堪え、相槌を打った。

「釣りはこの仕事が終わった後のお楽しみだな。楽しみにしてろよ、本当にマスがデカいんだからな」
「はいはい分かったよ。それより着替えて準備を済ませろ」

パジャマ姿のブロウを急かし、俺はナッツを一粒、口の中に放り込んだ。

終わり


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