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久遠の空 【完結】
7.Let's 女子会!!


「あの…お妙様、私を一体どこへ連れていくおつもりですか?」

「ついてからのお楽しみよ。久遠さんもたまにはリフレッシュしなきゃ」

「もう十分、お暇をいただきましたが…」


土方邸を出てからどのくらい経ったのか…
これで三回目くらい、同じ質問をしているけど返ってくるのは何かを企むような綺麗な微笑みだけ。

溜息をついて外を眺めて、屋敷の事を考える。
奴らだけで、本当に大丈夫だろうか。山崎は役に立たないし、新八がいるとはいえ限界がある。
おまけに極めつけは沖田くんだ。多分銀と結託して土方や山崎を弄り尽くすに違いない。

本当に…なんで俺を拉致ったんだお妙さんよ…



俺達を乗せた馬車は、煉瓦道を滑るように走って、ある店の前で停まった。


「お妙様、ついたのですか?」

「ええ、取り合えずね。その燕尾服をなんとかしなきゃいけないわ」

「……ブティック?」


馬車を降りたそこは、様々な洋服を扱うブティックで、お妙さんと神楽ちゃんは躊躇わずに入っていく。
あ、これって買い物付き合ってくれってパターンかもしかして。


『いらっしゃいませー!!』

「ヒィィィィイ!!」



恐る恐る店の中に入ると、中には沢山の店員ときらびやかなドレスの数々。
チョッ…一斉に向けられるこの笑顔が怖〜い!!
先に入っていたお妙さんは綺麗な笑顔で微笑んで、店員にこう告げた。


「あのー…」

「はい、なんでしょうか?」

「この人に似合うドレス、一着見繕って下さいな」

「畏まりました!!さ…こちらへどうぞ!」


え……
あの……
ちょっと…?


「お妙様、これは一体…」

「久遠さん、私達二人といるときは『造ら』なくても平気じゃありません?貴女が天野家の方だということ、二人とも知ってますから。呼び捨てで構いませんよ」

「え…でも…」

「久遠、私もヨ。何も気を使う必要ないアル。昔みたいに呼ぶヨロシ」

「あの、どこに…」

『ドレス見に行ってきます(くるアル)』


試着室に引きずり混まれながらも、必死に手を伸ばすけれど、二人はその手を掴むことなく服の中に消えた。


実はお妙さんと神楽ちゃんも、銀や新八と同じで昔から俺のことを知ってて幼なじみみたいなもんだ。
だからお妙さんの言うことにも一理あるんだけど、俺としてはなんとなく癖で様付けで呼んでしまう訳だ。


で、なんで俺はドレスを着せられてるんだよ、訳くらい教えてくれたっていいじゃねェか!!


着る方も着せる方も息を切らして、何着目かわからないドレスを着せられる。
黒いゴシック風のドレスだ。


「志村様、神楽様、このドレスはいかがでしょうか?」

「あら、似合うじゃない。でも…何かが足りないわ。ほかに似合いそうなドレスは無かったの?」

「申し訳ございません、当店ではこれくらいしか…」

「しかたがないわね。他のお店に行きましょうか」

「申し訳ございません」


再三謝る店員も、残念そうな二人も今の俺の目には入らず、俺はある服をジッと見据えていた。


「どうしたの、久遠さん?」

「いや…あの服、いいなって思って…」


俺の指の先には、今着ているドレスと対になった黒のスーツ。
スーツと言うよりは……アレだ、モーツァルトとかが着てるあの服に近い。


「あの、着せていただいても宜しいですか?」

「ですが…あれは男物の…」

「構いません、お願いします」


試着室でその洋服に袖を通してみると、何て言うかもう、自分で言うのもアレだけど、非の打ち所が無いくらい似合っていた。


「あら、いいじゃない?どうかしら、神楽ちゃん?」

「久遠はドレスより、こっちの方が似合ってるネ」

「じゃあ、これにしましょうか。みんな、ビックリするわね。すいませーん、これ下さいな」


え…あの、これ、買うの?
つーかお妙さんがお金出すの?!


「お妙様、代金…」

「妙『さん』よ、久遠さん…」

「は…はい!!」


怖い…
なんだろう、後ろに般若面が…
結局代金の事は突っ込めず仕舞いで、黙ってつっ立っていたら二人はほかにもドレスを購入して、再び馬車に乗り込んだ。


「あの…なぜ服を…」

「今日はね、女子会を開く予定なのよ。だから燕尾服じゃちょっと…」

「成る程…。でも、これもそんなに変わりませんよ?」

「いいのよ、似合いますから。…あら、ついたみたい」


馬車の揺れが止まって、お妙さんに促されて外に出た。で、そこにあったのは見覚えがありまくる建物。


「ここって…志村の屋敷?」

「ええ、本当は久遠さんの屋敷がよかったんだけど邪魔者がいるでしょう?だから、今日は私の家になったわ」

「そうなんですか…」


成る程、だから俺を行き先も告げずに拉致ったわけね。
奴ら…とくにゴリラとかストーキングして来そうだもん。


「お嬢様、皆様もうお揃いですよ」

「そう…ありがとう」


屋敷を少し歩いて、お妙さんの部屋へ向かう。
皆さん…て、他にも沢山来てるのか…


「そういえば、この方は…。男子禁制ではございませんでしたか?」


あ、俺男装してたんだっけ?
使用人のお姉さんから訝しげな視線。
そりゃそうか…
俺はこれが普通だけど、まともな女子ならドレスだからな。


「この人はいいのよ。私達の昔からの友人よ」

「ですが…」

「それに、久遠ちゃんは女の子だもの。構わないわ。それより、人数分のお茶をお願いね」

「畏まりました」


深々と一礼して、使用人のお姉さんはどこかに消えて、お妙さんは、それからしばらく歩いた所にあるドアの前で立ち止まった。


「さ、久遠ちゃんどうぞ」

「あの…俺先?」」

「ほら、早くいくアル!!」

「うわっ…と!!か…神楽ちゃァァん?!」


ドアを開いた神楽ちゃんに、押されてバランスを崩しながら部屋に入る。
途端に突き刺さる視線。
……うん、痛いんですけど。


「えー…と、こんにちは?」


ヘラリと笑ってみるけど、冷めきった部屋の空気。突き刺さる視線。


「お妙さん、誰かしらこの人…。普段のゴリラよりはマシだけどそれでも男性よ?」

「あら猿飛さん、この人とゴリラを一緒にしないでちょうだい。ほら、久遠ちゃん自己紹介」


冷静になって部屋を見渡すと、四、五人の女の子達がテーブルを囲んで座っている。


「はっはい。あー…、お妙さんと神楽ちゃんの昔からの知り合いで、天野久遠と申します。訳あって男装してますが、れっきとした女なんでよろしく」


ニコリと微笑めば、さっきまでの冷たい空気とは打って変わり、熱い視線に射抜かれる。
だから、痛いんですけど…


「まあ、とっっっっても男前だから許してあげる。こんなに男装が似合う人、そうそういないもの」

「ありがとうございます、猿飛様」

「いえ、いいのよ!銀さんから乗り換えようかしら、いいえ、私はやっぱり銀さん一筋よ!!なんで?どうしてこの子にこんなに惹かれるのかしら?!銀髪だから?銀さんと一緒の銀髪だからなのォォォォォ!!」


頬を赤らめてシャウトする猿飛さん。
いや…俺にはどうすることもできないよ、皆さん。だからそんな熱い視線はやめようねー。

大体、双子なんだから雰囲気から性格から、似てて当たり前だっつーの。


「この人は放っておいて座りましょ、久遠ちゃん」

「あ…いいんですか、彼女…」


悶えつづける猿飛さん。
彼女の頭上には…………うん、言い表せない物体がある。


「いいのよ、ほら、早く…」

「わかりました」


神楽ちゃんは既に座っていて、俺達が座ると会話が始まった。

議題は『格好いい旦那様』


候補は何人かいて、まず四大貴族の高杉、桂、坂本、天野家の若旦那。
家の場合は銀時で、それぞれの家の若旦那と俺達双子は幼なじみ関係にある。

それから、上級貴族の土方家の十四郎くん(家の旦那様だな)、沖田家の総悟くん(甘いマスクがいいんだとか…。いや、君達は騙されてるよ)。


あと、もう少し若ければイケそうなところに松平公。四大貴族より上の位の方で、警察機関に顔が利く端から見るとヤクザのおっちゃん。
みんなからは親しみを込めて『とっつぁん』と呼ばれている。



だがまあ話を聞くかぎり、トップはほぼ同率で銀時と土方、その下に他の四大貴族と沖田くんって感じかな?


うん、なんかムカつく。
なんで俺が入ってないんだよ!!
格好いい筆頭は何をとるにもまずこの俺様だろうが!!


話し合いがヒートアップしてきた時に俺は気がついた。
みんなの茶がない。

語り合いに首をつっこむ気のない俺は、茶を持ってくることにしよう。


「あの…俺、お茶持ってきますね…って聞いてねェなコノヤロー」


まあ解りきってた事だけどさ。
ほら、勝手に席を立っても気がつきやしないぜ。


「痛っ!!」

「ッッ??!!」


廊下に出て給湯室まで歩いていくと、何かと激突した。
そのまま縺れるように俺も倒れる。どうやら、女の子のようだ。
女子会に参加しに来たのかな?


「申し訳ございません、お嬢様。私の不注意でございました、大丈夫ですか?」

「こちらこそ……あ、格好いい…」


ポー…と俺を見つめたままの、転んだ少女の手をとり、立ち上がらせる。
あらま、この子、松平公の娘さん、くり子ちゃんだ…。俺…とっつぁんに殺されそう…


「申し訳ございませんでございまする。あの…お名前を…」

「天野久遠と申します。さ、こちらへ。会場まで案内いたします」

「ありがとうでございまする!!」


会場まで案内する間、彼女はずっと、俺に熱い視線を送るのをやめない。
いい加減穴が空きそうになった頃に部屋について、扉を開けた。


「どうぞ、くり子お嬢様。私はお茶を煎れてまいります、どうぞお楽しみ下さい」

「はいでございまする」


目をハートにして、頷くくり子ちゃん。
オイオイ…この子も勘違いしてるよォォォォォ!!
俺は女の子ですよー!

とか叫びながら茶を入れ直して、部屋に戻る。
くり子ちゃんが入ったことで、中では討論が激化している(因みにくり子ちゃんは土方派)。


「皆さん、お茶が入りましたよ。…どうぞ、くり子お嬢様」

「え、あ…申しわけございません!!あの…不躾な事を言うようでございまするが…」

「構いませんよ」


ニコリと微笑んで先を促す。
照れながらもくり子ちゃんは話を続けた。


「お願いします久遠様、私とお付き合いしてくださいでございまする!!」


空気が一瞬凍って………

そして、みんなが笑い出した。


「申し訳ございません、くり子お嬢様。私は女…しかも、くり子お嬢様よりも位が下の貴族の娘でございます。ですが、そのような勿体ないお言葉、ありがとうございます」


ポカン…としたくり子ちゃんだったけど、すぐにみんなと同じように笑い出した。


「残念でございまする。久遠さんは本当に格好よくて、くり子、一目惚れしました」

「ありがとうございます、くり子お嬢様。最高の褒め言葉ですよ」


どうやら俺が女だと納得してくれたらしい。
笑いながらみんなが席についたから、紅茶を配っていく。


「久遠さんあなた、こういう仕事、手慣れてない?どこかでメイドとかしていたの?」


猿飛さんの言葉に、皆一斉にざわめき出す。


「ええ、今は土方家にて、執事を勤めさせていただいておりますので…」


まあ、一年もやってりゃ慣れるさ。


「マヨラ様の?!」


くり子ちゃんの黄色い叫び声。
…ビックリしたぜ。心臓出てくるかと思ったじゃん。


「あの、久遠様、くり子からお願いがございます」

「なんでしょうか?」

「これを、マヨラ…いえ、十四郎様に渡していただきたいのです」

「?畏まりました…」


渡されたのは、分厚い封筒に入った手紙。
…中身が気になる。が、そこは我慢。屋敷につくまで我慢しよう。


それから対して話す事もなく、女子会はお開きとなり俺達は馬車で土方邸への帰路につく。


屋敷につくと、最初に飛び出して来たのはゴリラ。お妙さんに飛び付いて、正拳付きで地面に沈む。

それから銀と沖田くん。
二人ともバズーカを持っている。……なぜ?

最後にザキと……誰?
まさか土方か?!


「ただいま戻りました、旦那様」

「…遅いっつーの」

「これ、松平家のくり子お嬢様からお預かりして参りました」


土方に手紙を渡すとさっそく読み出す。
ああ、アフロ土方…、レアだな。
かなりウケる。
ナイスだ二人とも。


「じゃあ、私達は帰るわね」

「もう…ですか?ゆっくりなさっていけば宜しいのに…」

「病み上がりにゴリラの面倒を見させるのは胸が痛むから。じゃあ、また…」

「姐御!アレ、忘れてるアル!!」

「そうだったわ。……はい、久遠ちゃん」


手渡されたのは大きな箱。促されて見た中には、黒いゴシック風の、試着したドレスが入っていた。


「私達からの快気祝いよ。受け取ってちょうだい」

「ありがとう…ございます!!」

「じゃあ、今度こそ行くわね。また、いつか…」



そうして騒がしい客人達は実家に帰り、あとには俺達三人だけが残った。


「…どうした、土方?」


眉間にシワを寄せ、手紙を睨む土方。覗き込んだら手紙をずいっと差し出してくる。


「…行くのか、コレ」

「行かないとマズいだろ、コレ…」

「マジでか」

「マジだな」



くり子ちゃんから貰った手紙の中身、それは…



松平公直々のお手紙…―
松平邸への召喚状だった。



〜続く〜




この世界の力関係について

今回、いろいろ貴族が出てきたので、少し説明しておきます。


↓力関係…みたいなの↓


元老院
天人達(天導衆とかそこら辺)



松平家
幕府の重鎮っぽい人達



四大貴族(同盟関係)
攘夷四人組(銀さんは諸事情により苗字が天野)



上級貴族(四大貴族傘下)
土方とか沖田とか近藤とか…(真選組幹部クラス)



下級貴族
志村家 他




そのほかにも、『どの家の傘下がどこで』みたいなのもありますが、長くなるのでまたの機会に。





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