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久遠の空 【完結】
6.拉致られる…の巻


「いらっしゃいませ銀時様。新八にだけ連絡したつもりでしたが、手違いでもいたしましたか?」

「いや、ついて来たんだ。…てか久遠お前どうしたんだ、その目!!なんで逆高杉?!なに、ペアルックですかコノヤロー!!」


扉を開けると見えたのは、陽に透ける綺麗な銀髪。
俺が呼んだのは新八だけだったけど、銀まで来ていたらしい。

銀は俺の包帯を見ると顔色を変えて騒ぎ出す。


「いえ、なぜあの方とペアルックをしなければならないのでしょうか?殴りますよ銀時様。これは、旦那様を護った時に出来たものです」


ちょ…マジでやめろよ。高杉とペアルックとか…
本気で気持ち悪ィな。


「オイ…」

「ちょっと、護ったってなに?!高杉にやられたのその傷!!俺、高杉んところに行って…」

「結構です。旦那様を護ることが私の仕事ですので。皆様こちらへ、客間へご案内致します」

「オイって…」

「久遠さん、僕お茶煎れてきますね」

「あ、俺も後から行くから先に行ってて。銀時様と旦那様は、こちらへどうぞ」

「チョッ…」

「なあ久遠、その傷マジで平気なの?無理しないで休んどけよ」

「お気遣いありがとうございます。ですが、お気持ちは嬉しいですよ」


ニコリ…と銀に微笑むと、後ろから土方の叫び声がした。
振り向いたら唾を飛ばしながら怒鳴る土方と、開いた口の塞がらないザキ。


「テメェら…俺の話を聞けェェェェェ!!!!」

「なんでしょうか、旦那様。お茶の種類の事でしょうか?あいにくですが…」

「違ェェェェェ!!コイツ、この白髪天パの事だァァァァァ!!!!」


土方が銀を指差して鬼の形相で叫び倒す。
…煩いな、なんて近所迷惑な奴だ。


「なんで天野の次期当主が!!俺の屋敷にいるのか?って聞いてんだよ?!」

「それはなァ…」

「それは、私が呼んだからですよ旦那様。屋敷が空になってしまうので、屋敷の留守を任せるために、と。連絡が遅れて申し訳ございません、出掛けはとても慌てていたので…」

「だからってなんで…」

「よろしいではないですか、どうせ私共3人しかいないのですから。大人数の方が、ティータイムもきっと楽しいですよ?」


ニコリと微笑めば、土方は渋々頷いた。
銀は俺と同じくらい強いし、新八だって普通の強盗位ならば余裕で撃退できる。屋敷の留守を任せるならとても安心だ。


「わかった。……でもなんでコイツらなんだ?知り合いか?」

「ええ、新八とは古い知り合いで…。銀時様とは、この間のパーティーでお声かけしていただきました」

「…それだけか?」

「ええ…それだけでございます」


銀がショックを受けてるけどスルーだ。
今は奴に構う暇がない。というか余裕がない。

チラリとナイフを見せて殺気を飛ばしたら、空気を察したようで土方をつれて客間へ行ってくれた。

うん、さすが双子!!
言葉無しでも通じるもんだねぇ。


とりあえずその足で厨房に向かう。
そろそろ新八が茶を煎れ終わった頃かな?


「新八、終わった?」

「はい!!先に客間へ行っててよかったのに…。…あ、お茶の種類、ダージリンでよかったですか?…ていうかそれしかなかったけど…」

「うん、大丈夫。土方がダージリン好きなんだ。……てか、なんでそんなにカップが多いのさ?」


新八の準備したティーセットは、軽く10人分はある。5人しかいないのに、なんで倍…?


「ああ…来る時に姉上もって話になって、近藤さんも芋づる式に…。あとはここに来る途中で神楽ちゃんと沖田さんにあって一緒に来たんです。だから、総勢11人位なんですよ」

「へえ…なるほどね。じゃあ客間に戻ろうか」


二人で客間に戻って、いる人全員に茶を配る。
しかし、沖田くんがいない。

新八の話では、沖田くんもいるってことだったのに…


不思議に思って彼を探していたら、首筋に冷たい感覚がして、ヌッと剣が現れた。


「もしかしなくても沖田くん?」

「ええ、ここまで来ても気がつかねェから、久遠さんじゃないのかと思いやした。なんですかィその包帯?」

「いやあ…不名誉の負傷?旦那様を庇ったら額からザックリやられてね。多分、瞳は平気だから傷が治れば見えるようになるさ」


プッとみんな吹き出して、土方だけが眉を吊り上げた。


「テメェ久遠!!なんつうこと言ってんだ?」

「旦那様、私は本当のことしか申し上げません」


ニタリと笑う。
場の笑いも一層大きくなって、土方の眉間も渓谷並のシワが寄った。


「このっ…!!」

「土方さん、アンタ庇ったんなら不名誉の負傷、まさにその通りなんでさァ。ほら、早く死んじまえー」

「テメェにだけは言われたくねェェェェェ!!」


土方と沖田くんの息ピッタリのコメディー漫才。
二人で組めばきっとあたるぜ。


「あなたが久遠さん?」


ゴリラ+で騒いでる奴らは放っておき、神楽ちゃんとお妙さんと優雅なひと時を過ごす。


「ええ。申し遅れましたが土方家執事、天野久遠と申します。お妙様は、とてもお綺麗な方ですね。あのゴリラでは勿体ない…」

「あら…私、許婚にするなら貴女のような人がよかったわ」


花のように微笑むお妙さん。でも、その後ろに見えるダークマター…もとい般若面はなんだろうか?


「うわぁ!!格好いいアル。久遠、お前あそこのマダオ共より男前ネ!!」

「ありがとうございます、神楽嬢。お召しになっているチャイナドレス、よくお似合いですよ」


微笑んでから爆心地を見れば、ようやく喧嘩が終わったのかボロボロの体で椅子に座るところだった。


「久遠、茶ァくれ」

「かしこまりました」


土方のカップに茶を注ぐと、残りは雫しか無くなった。

そりゃあそうだ、この人数だもん。


「申し訳ございませんが、紅茶を煎れ直して参ります」

「あ、僕も行きますか?」

「一人で大丈夫。では、お楽しみ下さい」



一礼してから厨房に戻り、湯を沸かし直す。
俺は、湯が沸く音を聞きながら息を吐き出して、その場に座り込んだ。


「痛ェ…。チッ…高杉の野郎、マジで来やがって…」


高杉の付き人に斬られた傷が痛む。ズキズキと絶え間無く刺すような痛みに、傷口が熱を持ってなんとも辛い。

みんながいるまえでは気丈に振る舞ってはいたが、やっぱり痛いもんは痛い。


「あ゙ー…キッつぅ…」


今すぐ氷で冷やしたい。
けど、茶を煎れたらすぐ戻んなければ不信に思われる。

やっぱり、高杉の近くはロクなことがない。


「やっぱりか…。お前、昔とかわんねェな、みんながいればどこまででも無理してよ…」

「銀…。無理なんかしてないよ、ほら、立ち疲れただけ…」

「奴らは来ないから、座ってろよ。貧血起こすぞ」


慌てて立とうとすれば、銀にさりげなく戻される。
ハァ…やっぱり銀にはばれてたのかァ。


「やっぱ、バレた?」

「当然。俺を誰だと思ってんだよ?久遠の、双子の兄貴だぜ?…あ、飴ちゃん食う?」


はにかみながら差し出された飴ちゃんは、俺が大好きなウィスキーボンボン。
オレンジ色のそれを、迷わず口に含む。

懐かしい、昔の味だ。



「無理しないで、山崎とかいう奴使えばいいじゃねェか」

「駄目なんだよ、あいつ…マヌケ…だから」


ヤバい。
飴ちゃん舐めたら、瞼が落ちてきて、世界が回る。

お茶だって煎れなきゃいけないし、第一客が来てるのに眠るなんて…


「いいから、寝な。大丈夫だ、みんな知ってるし、心配してるから…。明日になったらちゃんと起きるよ」

「だ…めだっ…て……。まだ…仕事…」


世界が回る。
立ち上がろうとしたら、優しい腕が俺を包む。
駄目だ…落ちる。


「ほら、寝ろって。大丈夫だから…」

「う…ん……」



優しい銀の声を最後に、俺の意識は闇に落ちた。

久しぶりに、夢も見ずに眠った。




―――――…



「オイ、寝かせて来たぞ」

「ああ…すまねェな。わざわざアンタが行くとは…」

「構わねェよ、好きでしたことだ」


ニヤリと、久遠とよく似た顔で銀髪が笑う。

馬車の中から顔色が悪い久遠に気がつき、なんとか休むように仕向けたかったが、奴は他人がいるところではそんな素振りをちっとも見せず、『執務室に帰る』と久遠を追い掛けた俺に、銀髪もついて来た。

それから俺を執務室に帰して、自分で厨房に行っちまった…と、いうわけだ。


「アイツ、放っておくと死にそうだな…。大串クンみたいな人に拾われてよかったよ」

「…土方だ。アンタも久遠の事、昔から知ってんのか?」

「さァな。でも、お前と同じだ。…俺ァ客間に戻る、お前もしばらくしたら戻ってこいよ」

「命令すんな」


銀髪は本当に久遠と似ている。久遠も、こう言う質問をすると銀髪みたいに上手にはぐらかしてニヤリと笑う。


まあ、久遠は怪我が治るまできちんと休ませて、使えねェが山崎でも使うことにするか。



―――――――――――


朝、目を開くと、自分のベッドの天井が目に入る。

あれ…俺、銀から飴ちゃん貰った後のこと、覚えてない。

それでもまあいいかと寝返りすると、目に入ってきたのはフワフワの銀髪。


「おはよう久遠、寝顔も可愛いな」


俺、フリーズ。
ていうかデジャブだよコレ。前は確か、これが黒髪だった筈だ。


「昨日、お前寝ちまったからさあ、夜になってから忍び込んだ」

「まさかあの、ウィスキーボンボン……」

「ああ、睡眠薬入りだ。テメェは意地張って、休めっつっても休まねェだろ?」


ニヤリと銀が笑う。
いや、その通りなんだけど、それ以前になぜ銀が俺のベッドに入ってるんだ?って話だ。


殴り飛ばすか、放置か考えていたら、銀がベッドから引き抜かれて『メギャ…』みたいな筆舌しがたい音を立てて壁に減り込んだ。

唖然としてその光景を見つめていたら、あとから出てきたのはこの屋敷に滞在する女性2人。
たった今、銀を減り込ませたのはこの2人のうちのどちらからしい。
が、普通…無理だろうよ…


「銀さん、あなた女の子の寝込み襲って狼にでもなるつもりなんですか?」


後ろに般若を背負い、なぜか薙刀を装備したお妙さんが微笑む。
いや…怖いんですけど…


「銀ちゃん見そこなったネ。一生壁に減り込んでるヨロシ。久遠、このマダオに何もされてないアルか?」

「ええ…。なぜ、貴女方が私の自室に…?」


そして、お妙さんの隣に仁王立ちしてヌンチャクを構えるチャイニーズガール。
……いや、怖いんですけど。つーかヌンチャク違くね?


「土方さんに頼まれたんです。銀さんや他の人達が夜ばいに来てないか確かめてくれって」

「はぁ…それで、アレですか。で、なぜ薙刀とヌンチャクを…」

「土方さんに頼まれたんです。万が一、夜ばいに来てたら止めてくれって」

「止めるって何を?…息の根?」


満面の笑みで微笑むお妙さん。
もう嫌だ、朝から心が折れそうなんだけど…。
誰か、切実に頼むからお妙さんの背中に居座ってる般若と鬼を退治してくれ。

てかなんで俺、客に起こされてんだよ…。
時間は……って!!
もうAM07:00だとォォォォォ?!
朝飯の支度してないィィィィィ!!!!


「申し訳ございません、お二方にはご迷惑を…。今すぐ朝食を…」


ワタワタ起き上がる俺を、お妙さんが制止する。


「ご飯の事は心配いりません。土方さんの話では今日から、久遠さんの包帯がとれるまでは山崎さんをパシ…じゃない、使うそうですから」

「いえ…それでも…」


奴には任せておけない。おける訳がない!!
厨房が…爆発する!!


「大丈夫ですよ、新ちゃんもいますし心配いりません。たとえ山崎さんが使えなくても、新ちゃんがいればなんとかなりますから」

「なら…いいんですが…。…では私は、一体なにをすれば…?」


執事職から外されるのは正直ありがたい。
けど、俺はその間一体なにをしてればいいんだろう?


「そのことなんですけど、私と神楽ちゃんについてきていただけますか?頼みたいことがあるんです」

「頼みたい…こと?」


眉を寄せて聞き直すと、二人は満面の笑みで頷いた。


「お願いします、土方さんにも許可はとってありますから」


逃げようとする銀に、俺を見ながら薙刀を投げる。薙刀は銀の鼻先15cmに深々と突き刺さり、タラリと冷や汗が流れた。


「承知して、いただけますよね?」


勿論ですとも。
私はあなたたちに逆らう勇気なんかありはしないのだから…
だって、お妙さんと神楽ちゃんがとてつもなく怖いから…


「では着替えますから外で…」

「いえ、そのままで大丈夫です。では、ついて来てくださいね?」

「はい…」


二人は客間の方へ向かい、自室の前で止まった。


「お二人のお部屋…ですか?」

「ええ、どうぞ入ってください」


招き入れられ、入った俺の瞳に入ってきたもの…
それは…


「お願いというのは、ドレスを着ていただきたいんです」


そう、大量の、色とりどりのドレスだった。
口元が引き攣る。
そっと出口に身を寄せると、出口には神楽ちゃんが仁王立ち。
とても逃げられる雰囲気じゃない。


「女に二言はありませんよね、久遠さん?」


怖い。
お妙さんと神楽ちゃんの瞳、あれは完璧狩る方の瞳だよ


絶対的な力の前に、俺はただ、頷くしかなかった。


――――――


それから一週間…―
俺の日課は郵便受けをのぞく事からお妙さんと神楽ちゃんの着せ替え人形になることに変わった。


一週間で着せていただいたドレスの数は、それこそ物凄い量があって、毎朝グッタリだ。
だけど、ドレスは全部趣味がいいし、着物やチャイナドレスとか普段着れないものを着せて貰ったのは楽しかった。

1時間位着せ替えされて、1番似合っていた(らしい)ものをお妙さんに『着ないと殺るぞ』オーラ満開で手渡されて、しかも土方の許可がないとドレスが脱げない(なぜ?)制度が導入。

どんなに頼み込んでも土方は頷いてくれなくて、結局執事職休業中の一週間、俺はドレスでいたわけだ(因みに今日は英国風ゴシックドレス)。


天野家にいた頃と同じような格好で、同じような生活をしていたけど心境は全く違って…―


あの時は不自由しか感じなかったのに、今はみんながいるからか、賑やかだからかこの姿でいてもちっとも苦痛じゃない。




そして、一週間目の今日…―

昨夜傷の治りを確認して、大丈夫だと判断。
執事業を再開しようと燕尾服に袖を通した。………のだが。



「あ、おはようございますお妙様、神楽嬢」

「おはようございます久遠さん。…あら、包帯取れたんですか?」


俺の包帯が無くなった顔をみて、顔を見合わせて微笑む二人。

あれ、今日は着せ替えにきたわけじゃなさそうだ。


「傷痕残らなくてよかったアルな。じゃあ姐御、私準備して来るヨ」

「ええ、神楽ちゃんお願いね」


二人は通じない話をした後、神楽ちゃんは部屋を飛び出した。
そして、お妙さんがにじり寄る。


「あの…お妙さん?」

「じゃあ、行きましょうか?」


お妙さんはその細身の身体のどこにそんな力があるのかと疑いたくなるほどの力で俺の腕をガッチリ握りしめ、そのまま土方の執務室まで連行した。


「土方さん?」

「ウォッ…なんでお妙が…ってか久遠も?一体何がどうしたんだ…」


慌てる土方。
お妙さんは土方ににっこり微笑み、こう言い放った。


「土方さん、久遠さんを拉致…じゃなかったわ、少し借りて行きますから」

「ヘ…オイ…!!」


土方の制止も聞かないで、勿論俺にはなにも言わないで、お妙さんは馬車に乗り込んだ。
その中には神楽ちゃんもいて、誰か俺に説明してくれ…と叫びたいくらいだ。


「じゃあ、出してください」

「え…お妙様、どちらへ?」

「つくまでの秘密です」



二人がニタリと微笑む。
どこへ向かうかわからない馬車。


俺、本気で拉致られちゃいました。




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