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久遠の空 【完結】
5.意外な来客


綺麗な、よく晴れた日の朝―…

今日はとてもいい日になりそうだと思いながら郵便受けをのぞき、主に差し出した。


「土方、今日はいい日になりそうだよ」

「テメェは晴れると機嫌がいいな。そんなに晴天が好きなのか?」

「だって、なんか凄くすっきりしない?空が綺麗だとさ」

「そうかァ?俺は普通だ。…てか、テメェ当ての郵便だぞコレ」

「え…ああ、悪い。ありがとう」


土方から受け取った封筒は、和風なうさぎ柄の縦封筒。

中身に目を通して、そして―…


グシャ…


「お…おーい…」


握り潰した。
全言撤回。全然いい日じゃなかった。


「ど…どうした?手紙、誰からだ?」

「高杉様からです、旦那様。ご覧になりますか?」

「は…はい。お願いします」

「どうぞ」
"皺くちゃですが…"


手紙の中には、この間のメモと同じ筆跡で、握り潰したくなるような文章が綴られていた。


『天野久遠 嬢

めんどくせェのは嫌いだから単刀直入に言う。俺様の嫁として、俺の屋敷に来い。返事は3日後までだ。
いい返事、期待してる。
高杉 晋助』



うん、アイツ
マジでシメたい。
読み終わった土方は大まじめな顔でしみじみと言った。


「で、どうするんだ?」

「なにが…ですか?」

「この、手紙に書かれていることだ。俺には止める権利なんかねェが、テメェが行きたいのなら…」


やっぱり土方って馬鹿だ。俺に、死ぬまでついて来いっつった癖に、こんな手紙ごときで弱気になりやがって…


「旦那様、私があんな奴のところに妻として行くとでもお思いで?」

「…こんな所よりは、待遇がマシだろう?」

「やっぱり馬鹿だね、アンタ。俺が望んでここにいるんだってこと、忘れたか?」


お前に拾われてから五年間。俺はずっと、望んで土方の隣に居続けたんだぜ?


「今更、他の野郎の所に行きたいなんて思う筈ないだろう?俺は、土方の執事だ。それに誇りを持ってるんだ。もっと自信持てよ」

「久遠…」

「俺は土方の側にいるよ」


誰に言われようと、何をされようと、俺は土方の隣に居続ける。

……でもその前に、俺は高杉の野郎を殴りたい。
うん、切実に。




……
………
…………


〜三日後〜


「おい、アレに返事したか?」

「アレ?」

「高杉の手紙だ。返事したのか?」

「ああ…してない。というより、する義理ないじゃん」


俺の中で、あいつの存在は皆無。
返事は三日後とか書いてあったけど、返事を書く義理はない。てかむしろ、返事が欲しけりゃ自分が来ればいいんだよ。


「ククク…酷ェ言い草じゃねェか」

「あ゙?!…あ、高杉…様」


あ、本当に来た。
ていうか山崎どうしたんだよ。


「無断でのご訪問、歓迎いたします、高杉様。山崎…いや家事手伝いの者がいた筈ですが…」

「そいつなら、ここまでの案内に使った」


高杉の後ろから、泣きかけの顔をした山崎が転がり出てくる。
チッ…使えねェ。


「左様でしたか。気が利かずに申し訳ないございません。すぐに客間へお通し致します」

「このままで構わねェ。今日来たのは、テメェに答えを聞きに来ただけだ。……つってもここまで来て、ただ聞いて帰るのも面白味がねェ」

「…と、言いますと?」


嫌な予感しかしないな。
ほら、なんかニタニタしてるし。


「俺の屋敷に来い。美味いワインがあるんだよ」


ほら来た!
どうするんだよ土方クン!!


「わかりました、高杉様。お招きありがとうございます」


ってオイィィィィイ!!
行くのかよ?!


「旦那様、高杉様のお屋敷にお邪魔するのですか?いきなりではご迷惑では…」

「いいじゃねェか、高杉様が来いっつってんだ。美味いワインでもご馳走になろうぜ」

「御意、旦那様。では外出の準備を致しますので、申し訳ありませんが高杉様、少々お待ちを…」

「ああ。外に馬車を待たせてある。準備が出来たら来い。……ああ、因みに白い燕尾服着て来いよ」

「了解致しました」


土方の外出準備をしてから山崎と一緒に外に出す。俺は、屋敷の戸締まりをダッシュで済ませて、超速く着替えて馬車に向かった。

あ゙あ゙!!
面倒くさい!!

でも無事に白い燕尾服に着替えて馬車に到着。


「お待たせ致しました。戸締まりをしておりましたもので…」

「やっぱり似合うじゃねェか。…出すぞ」



それから世間話をしながら馬車に揺られること3時間…―


「デカ…」

「威厳あるお屋敷ですね…」

「なに止まってんだ、行くぞ」


付いたのは古くて荘厳で、天野の屋敷並に巨大なお屋敷。

迷子になりそうな屋敷内を歩いて、客間に通される。


「テメェは座らねェのか?」

「ええ、高杉様。私は執事ですから」

「へえー…」


ニタリ、と笑う高杉。
あ゙〜〜!!
マジで嫌だこの人!!!!

みんなが席につくと(何故か山崎まで)金髪のメイドが、人数分のワインを持ってきて、それぞれに渡していく………筈だった。


「ギャッッ!!」


金髪メイドが、絨毯の縁に足をかけて前につんのめる。
彼女が持っていたお盆に乗ったワインは、綺麗な弧を描いて俺の頭に着地した。


「もっ申し訳ありませんッス!!すぐに拭くものを…!!」

「いや、大丈夫ですよ…」

「何やってんだまた子…。すまないな、今風呂に案内する」

「遠慮するなよ。その銀髪、ワイン色に染まるぞ」


そしてあれよあれよという間にシャワーを浴びることになり、この無駄なくらい広い浴槽に浸かっている。


「湯加減はどうッスか?」

「気持ちいいですよ。どうもありがとうございます」

「着替え、ここに置いて置くッスから。着替えたら、教えてください。外で待機してるッス」

「わかりました」


で、風呂からあがって着替えをしようとしてビックリ、だ。
着替えが、燕尾服じゃなくてきらびやかなドレスがハンガーにかけられていたんだから。


「あの…また子さん?」

「着替え終わったんスか?」

「いや、着替えがドレスなんですけど…」


しかも胸元ガッパリ開いたド派手なやつ。
…ありえない。胸だけじゃなくて背中もガッパリ、だ。


「燕尾服、ないですか?」

「すみません。晋助様に確認したら、それでいいと言われたッス。…あ、晋助様」


ゲ…高杉いるのかよ。
防衛本能で扉から離れてまた子さんと高杉の話を聞く。


「おい久遠、聞こえるか?」

「はい」

「うちには、テメェに合うサイズの燕尾服がねェ。とっとと着替えねェと覗くぞ」

「はァ?!」

「それとも覗いて欲しいのか?」

「チョッ…わかりました!!着替えますから覗かないで!!」


ヤバい、高杉ならマジでのぞきそうだ。
しかも、万が一覗かれたら土方に殺されそうだ。
なんとなく…だけど、そんな気がしてならない。

で、不本意だけど着替える。
このドレス、何故かピッタリなんだよな、サイズが。
一体いつ測ったんだ…


「着替え…ましたけど…」

「フ…似合うじゃねェか」


頭のテッペンからつま先までジロジロ見られて居心地が悪い。


「ついて来い」

「どこにですか?旦那様の所に戻りませんと…」

「その格好でよく戻る勇気があるな。テメェとサシで話したいんだ、文句言わずについて来い」

「…畏まりました」


あ、そうだ。
ドレスだったんだ。
この間のドレスならいざ知らず、この派手なドレスで土方の前に出る勇気はない。

高杉について屋敷内を歩いて、ある部屋に通される。

屋敷はどこも洋風なのに、ここだけが和風で、物静かな感じだ。
まさに『高杉晋助』って感じ。


「ここは?」

「俺の部屋だ。ここには誰も近づかねェ。お互い本来の立場で話そうじゃねェか」

「ああ…」


本来の立場…―
『天野の令嬢』と『高杉財閥の当主』
で、何を話すんだ?


「答え、用意してきてんだろうな?」

「答え?……ああ、手紙のか。自分から答えを聞きにくるなんて、随分と殊勝じゃねェか」

「で、答えは?」

「お断りします」


ニッコリ笑って言い放てば、高杉はピクリと眉を動かしたが、言葉を続ける。


「俺は今、土方家の執事だ。アンタの所に嫁に来て、のんびり暮らす気はない」

「ふぅん…そうかよ。だがな、いくら執事っつったって……」

「ッッ!!」


高杉が素早く動いて、俺を机に押し倒す。
ニヤリと笑う高杉を、余裕の笑顔で交わすけど心の中はバックバクだ。


「テメェは女だ。…どうやっても、男に勝てはしねェ」

「俺が、そこら辺の素直な女に見えるかよ…!!」


勝ち気に睨んで見せるけど、俺は絶対絶命。
普段は体中に仕込んでいるナイフも、露出度の高いこのドレスのせいで仕込めず丸腰だし、腕は頭の上で縫い付けられてる。
おまけに足は、変な体制のせいで思う通りのところに動かない。


「ククク…俺の嫁に来ること、承諾したらやめてやってもいいぜ」

「卑怯者…!!好きでもない女を娶ってなんになる?俺は、天野家にとっても殆ど価値がない存在だ。政での利用価値は皆無だぜ」

「なんとでも言えばいい。だがこの俺様が、好きでもない女を娶るように見えるかよ?」


高杉が驚くくらい綺麗に微笑んだ。
不覚ながら、見とれちまったじゃねェかコノヤロー!!


その時、ドアの方から物凄い破壊音がして一瞬、腕の力が緩んだ。
その隙を見計らって、体を捻って高杉の下から抜け出す。


「久遠!!…無事か?!」

「旦那様…どうしてここに…」

「久遠に呼ばれた気がして…。つーかそのドレス、なんだよ?」

「高杉様からの借り物です」


破壊音の主は土方。
どうやらドアを蹴破って来たらしい。ついでに山崎もへっぴり腰でついて来ていた。


「ククク…二人揃って面白ェ」

「申し訳ないッス、晋助様!!逃がしました」


後から追い掛けて来る金髪メイド。
オイオイ…マジでどうしたのこの人タチ…


「久遠、答えはどうやってもNOか?」

「ええ…。今は護りたい奴がいます、だから、何をされても承諾出来ません」

「ククク…じゃあしょうがねェなあ万斉」


万斉…?
一体誰に喋って…


って、まさか!!


「なら、守り通してみろよ。…出来るもんならな」


慌てて振り向く。
土方の後ろには刀を構えたグラサンが、振りかぶっている。

ザキも土方も、気付いてない。


慌てて駆け出す。
土方もザキも、俺が駆け出したのに合わせて気がついたけど、避けるのが間に合わない。


ザキが叫んで、土方が振り下ろされる刀を凝視する。


「土方ァァァァア!!」


俺は無我夢中で土方の前に飛び出した。
瞬間、右目に走る焼けるような痛み。

一拍遅れて、斬られたんだと理解した。


「クゥ…高杉様、アンタ、俺が断ったら土方を…!!」

「さァな。これでも頷かないか?」

「当然、だ。誰を人質に取られようが、俺は、守り通す!」


高杉はただ、面白そうに笑っていただけだった。
チッ…腹立つなあ!!


「久遠、これ使え!!山崎、包帯持ってこい!!」

「はい!」


土方から渡された真っ白なスカーフ。
これはマズイだろうと思って押し返せば、無理矢理押し付けられた。


「高杉様、俺達はこれでお暇する。…もう二度と、コイツを傷付けんじゃねェ!!」

「旦那様、あまりに先方に失礼ですよ。では高杉様、私共はこれで。ドレス、汚してしまったので後で弁償致します」

「速く行け。…ドレスはやる。じゃあ、またな」


高杉はいつもの笑顔で笑った。
それを片目で精一杯睨んで、俺達は高杉邸を後にした。


馬車の中で、山崎に包帯を巻いて貰う。


「大丈夫ですか、久遠さん?すいませんでした、俺が1番近くにいたのに…」

「いんじゃねェの。俺、死んでねェし」


片目になった視界はいつもより狭く、右目が絶えず痛み続けるから、高杉邸から拝借した氷で冷やしていた。


「よくねェよ!テメェ、死ぬところだったんだぞ。俺なんかの為に…」

「死ななかったよ、どうなってもね。あのグラサン、俺らを殺す気は無かった。ただの脅しだよ」

「でも…」

「いいっつってんだろ?そのうち治る」


でもやっぱり、高杉ムカつく。
次あったら、ボコボコにしてやる。


「そういえば、屋敷、空っぽですね。大丈夫ですかね?」


山崎が思い出したようにポツリと言って、土方もハッと目を見開く。


「平気だよ。ある人、呼んどいた」

「ある人って?」

「つけばわかる」


二人は納得しなかったけど、ずっとニコニコしてたら諦めて、土方邸に到着した。


「あれ、鍵かかってる…」

「呼び鈴、押してみ?」


山崎が呼び鈴を押すと、遠くから返事をする声。そして、ガチャガチャ鍵が開く。


「あ、お帰りなさい」

「あらあら、凄い格好いだな。さすが高杉」


出てきた人間の姿を見て、二人とも顎が外れるくらい唖然とした表情で俺を見る。

開いたドアから顔を覗かせたのは、地味な眼鏡とふわふわの銀髪。天野家時期当主の天野銀時とその付き人、志村新八の姿だった。


〜続く〜

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あきゅろす。
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