久遠の空 【完結】
4.隻眼紳士の必殺技
「銀、やっぱりアンタ、白が似合うな」
銀時は真っ白なタキシード。銀髪が綺麗にハマってて、思わず見とれてしまう。
「お前も、やっぱり黒がよく似合う。せっかく銀髪と合うと思ったのに、なんでそんなカツラ被ったんだよ?」
"それでも似合うけどさ"
「新八から聞いてるだろ?今、表舞台で、目立つ訳には行かないの。だから今は土方のイトコ」
「いや、十分目立ってるからね。自覚ねェのか?男共の視線、独り占めだったぞ」
「じゃあ、意味無いじゃん。やっぱり、このドレスのせいだな…」
せっかく銀髪だと目立つと思って土方と同じ色のカツラ被ってきたのに、目立ってんじゃあ意味がない。銀から贈られたこのドレスが原因なのだと思いたい。
「俺のせいかよ?!…まあいいや、せっかくだし踊らねェ?」
自然なタイミングで差し出される手。ほら、こんなところまで変わってない。
大好きな、大きな手。
「アレ?お前が仕えてる奴って…。あの、女に囲まれてる奴…」
銀が顎でしゃくった方には、女に詰め寄られる土方が。
ヤバい、土方のくせになんかムカつく。残念な事に、今日はフォークしか持ってきてないんだよな…
「うん。実を言うと、銀が贈ってくれたドレス、1番喜んでたのは土方なんだよ。俺、ドレスなんて持ってなかったから」
「ふー…ん。…モテモテだこと」
不機嫌そうに相槌を打つ銀。
あ…なんか機嫌悪くなった。
「…銀?」
「なあ、いろいろ聞かせろよ。六年分の思い出話」
「あ…うん。じゃあ、バルコニー出ようよ。ここだと、ちょっと…」
俺の六年分の思い出話、ここだとちょっと場違い過ぎる。
土方に知らせは…まあいいか。
アイツ、まだ女に囲まれてやがる。しばらく解放されないだろうし。
銀と二人でバルコニーに出ると、予想外に誰もいなかった。
逢い引きしてるカップル、いそうだったのに…
「…聞きたいこと言ってけよ。全部、正直に話すから」
「じゃあ、家出の原因。俺、一言も相談されてない」
ふて腐れる銀。
たしかに、一言も相談してなかった。いや、できなかったの間違いか…
「原因は、皇国星とかいう国の皇子と無理矢理結婚させられそうになったから。あとは…、自由が欲しかったから、かな」
「それ、俺聞いてねェぞ!!」
「言わなかったもん。銀もあの時、忙しかっただろ?」
「ま…まあ…」
あの時の銀は、天野家の跡取りとして忙しい盛りだったから、話す暇も、顔を合わせる時間もなかった。
暇つぶしに、外に出ることすら許されない。
とにかく孤独。
あの時の俺にとって、この家はまるで鳥かご。
狭くて、苦しくて、小さくて、孤独で、くだらない世界しかない。
どんな形でもいいから、ここから逃げ出したかった。
「ほら俺って、この家の人間にとって『いらない存在』じゃん?だから、どうせ誰も気にしないし黙って屋敷を出た」
銀にしか興味が無かったお父様って奴は、案の定娘が家出して行方不明になっていたのに捜索願も出さず、実質六年間、俺はいないものとされつづけた。
まあ、俺に興味が無かったおかげでこんなところで呑気に執事なんかやっていられる訳で、その辺はほんの少しだけ感謝だ。
「そう…だったのか。……悪かったな、久遠。気付いてやれなくて…」
「いや、構わないよ。俺が好きでやったことだ、銀にはなんの責任もない」
「だけどよ…」
「俺にとって、六年間、ずっと忘れないでいたことの方が嬉しい。…娘を捨てた父親よりは、1000倍マシだわ。…他に聞きたいことは?土方邸での暮らしでも話そうか」
そこからは、銀の質問に答えつつ、俺の好きになったものの話をした。
この屋敷では見られない、満点の星空のこと。
寝転がれる、綺麗な原っぱに、土方邸の、大好きなようだ屋上。
あとは、馬鹿みたいに田舎でしかみられない、綺麗な星空について熱く語っていた。
銀は全部、楽しそうに聞いてくれて、ついでに銀の六年も話してくれて、空白の六年間がどんどん埋まっていく。
「こんなに話したの、いつぶりだろう…」
「俺も。最近、オヤジの相手ばっかで全然こんな話してなかったし…」
「でも参ったよ、銀も執事になっていただなんてさ」
本当、予想外だ。
外交を間近で学ぶために、執事になってしまうなんて…
経緯は違えど、やっぱり双子だ。考えてること、ほとんど一緒。
「銀と一緒にいると、すごく落ち着く…」
無くなったピースが、ピッタリはまるようなそんなスッキリした気分。
そんな時だった。
背後から、急に誰かが話しかけてくる。
「楽しそうだなァ銀時。女まで連れて、テメェいつの間にそんなにモテるようになったよ?」
完璧に不意打ちだ。
もしかして俺たちの会話、聞かれてたか?!
「俺はいつでもモテモテなんだよ。ところで高杉、テメェ盗み聞きは犯罪って母ちゃんに習わなかったのか?」
バルコニーの入口にいたのは、左目を眼帯で覆った隻眼の男。
モーニングコートの上衣のポケットに手を突っ込んで、柱によっ掛かって立っている。
「ククク…未遂ならセーフだ。ところでその女、誰だ?見かけねェ顔だな」
ニマリと何を考えているのかわからないような顔で笑うこの男に、自然と警戒してしまう。
ボソリと銀の耳元で気が付かれないように囁く。
「銀、この方は?」
俺の昔っからの得意技。
他人の前で猫を被ること。
うまいだろ?
さっきまで男みたいな言葉使いしていた奴の言葉遣いじゃないからね。
この変わり身の速さは昔から定評があって、よく銀を呆れさせてたのを思い出す。
「高杉晋助。同盟を組んでる高杉財閥の御曹司だ」
「…そう」
コイツが高杉のご子息…
昔、小さい時に一度だけあったときがある。けど、その時は眼帯してなかったし、もう少し愛らしかったはずだ。
「へえ…中々いい女じゃねェか。紹介しろよ」
高杉がゆっくりと歩いてくる。
奴は、土方と同じ全身真っ黒なのに、雰囲気が全然違っていた。
なんていうか…威圧的な雰囲気っていうか…
どうやっても苦手な奴だと思う。
「申し遅れました。土方家の遠縁の親戚の、土方久遠と申します。どうぞ、よろしく」
「ふー…ん、高杉晋助だ。…テメェ、中々いい眼をしてやがる。ただの女じゃねェな」
顎を掴まれて、無理矢理高杉の顔を見させられる。
綺麗な、紫闇の瞳。
不思議な光が宿っていて、吸い込まれそうだ。
楽しそうに細められるその眼に負けないように、睨み返す。
「私はただの、平凡な娘でございますよ、高杉様」
「フ…気が強い女だ。…それにしても、綺麗な紅い瞳だな。銀時と同じ色だ」
「そうでしょうか、天野様の方が、深い色をしていらっしゃいます。それに紅い瞳など、この世に沢山いらっしゃるでしょう。私には、高杉様の瞳の方が綺麗に思います」
「おい、久遠嬢!!高杉も離れろォォォォォ!!」
挑発するように流し目で微笑む。銀が慌てたように止めに入って、俺達を無理矢理引きはがした。
「…まあいい。俺はそろそろ戻る。またな……『天野』久遠嬢」
「ッッ!!…ええ、また」
ニマリと笑った高杉は最後の言葉だけ俺の耳元に口を寄せて囁いた。
コイツ…気が付いてやがったのか。だから、わざわざ揺さぶるようなことを言ったのか。
しかも、耳元に口を寄せたついでにキスまでして行きやがった。
とりあえずフォークでもいいから突き刺したい。
「久遠、高杉はなんて…」
心配そうな銀。
これ以上、銀に心配をかけたくない。
「また、逢いたい…ってさ」
「そうか…」
ホッとしたように銀が微笑む。
よかった、気づかれてない…
「久遠――!!……って天野様…失礼いたしました」
高杉と入れ違いに、土方がバルコニーに飛び込んで来る。
「十四郎様、どうされましたか?」
「どうしたもこうしたもあるか、帰るぞ!!」
「はい」
土方、相当酷い目にあったんだな。軽く涙目になってやがる。
「では天野様、私はそろそろ行きますね。今日はどうも、ありがとうございました」
「ああ……またな」
銀に一礼して、屋敷から出た。
土方は隣でブツブツ文句を言っている。まったく、男なら割り切れよな。
俺はと言えば、久しぶりに銀に会えたことでとても機嫌がよくて、珍しく鼻歌を歌っていた。
「おかえりなさい、二人とも。パーティーはどうでしたか?」
「最悪、だ!!」
「〜〜!!なっなにするんですか旦那様?!」
「あ゙あ゙?!山崎ィ、テメェなにいってやがる?」
機嫌に任せて、土方がザキを殴る(しかもグーで)。
涙目でザキが文句を言うが、土方の一睨みで静かになった。
かわいそうなザキ………とは思わない。
だって、普段仕事サボってるんだから、それくらいされて当然だ。
「ドンマイ、山崎」
「何があったんですか、旦那様に…。なんで久遠さんがいながらあんなに機嫌が悪く…」
「さあ?料理がマズかったんじゃないかな」
「そ…そうですか。……あ、そうだ。久遠さん当てに手紙を預かっていますよ」
「へえ…誰から?」
珍しいな、俺に手紙なんて…
一体どこの物好きだ?
手紙は厚紙を二つ折りにしただけと簡単な物で、中には神経質そうな、達筆な文字が並ぶ。
「高杉と言えばわかるって…」
「…なるほどね。ありがとうザキ」
「はい。…なんで死の呪文なんですか?」
「ん?死んで欲しいって願いを込めて」
「そうなですか…ってえェェェェエ?!」
高杉にって意味だったけど、この際ザキでもいい。
物凄く誰かを殴りたくなったんだよ手紙を読んだらさ。
「おい…久遠、その手紙…」
「なにか?旦那様」
「イエ、なんでもゴザイマセン!!」
さっきまでの雰囲気が一転、お互いの機嫌が真逆になった。
俺のテンションをどん底にたたき落とした手紙には、こう書かれていたんだ。
『天野 久遠 嬢
近日、テメェを迎えに行く。楽しみに待っていろ』
手紙を読んだら、バルコニーでの出来事を思い出して、フツフツと怒りが沸き上がる。
「アイツ…マジでシメる」
一緒の馬車に乗っていた土方は、なんにも言えずに下を向き、震えていたのはいい笑い話だろう。
〜続く〜
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