久遠の空 【完結】 3.双子の絆 近藤さん達は、一泊してから自分の屋敷に帰り、土方邸は静けさを取り戻した。 新八は今朝早く銀時への手紙を持って天野邸に出発した。 いつも通りの執務室。 ん…とコーヒーを飲みながら、土方が手を伸ばす。 「おい、あのメガネから今度のパーティーの招待状、貰ったんだろ?見せろ」 「どーぞ」 招待状を手渡すと、土方はそれを読み上げていく。 「えー…と……、24日午後6時より、我が天野邸にて晩餐会を執り行う事となった。パートナー同伴の上、上記の時間まで天野邸に来られたし。……なんだこりゃ、パートナー同伴って…」 あの人、相変わらず急すぎる。 パートナー同伴って、いない人はどうすんのさ? 執事同伴じゃ駄目なのか?! 「随分急だね。24日って明後日じゃん。土方、パートナーどうすんの?」 「取り合えず…明日までに考える」 唸る土方。 頭を抱えて一通り唸って、何かを思いついたようにパッと顔をあげた。 「久遠、テメェがパートナーになりゃあいいんだ!!」 「はァァァァァ?!土方お前ついにボケたか?男、しかも執事は普通、連れ込み禁止だろうが!」 「だから、お前女だろ?ドレス着て一緒にパーティーに行きゃあいい!!」 ナイスアイディアだと、土方独りで勝手に頷いているけれど、糠喜びだ。 俺にはパーティーに参加出来ないある理由がある。 「お喜びのところ申し訳ないんだけど…」 「ん?」 「俺、ドレス持ってないけど…」 そう、俺はドレスを持ってない。いくら性別が女でも、晩餐会の基本は正装。則ちドレスアップが基本だ。 普段着で行ったら門で追い返される。 それに気が付いて、ピシリと固まる土方。 おい…タバコの灰、こぼれてるって… 「今から買いに…」 「晩餐会用のドレス?ここから売ってる街まで一日半かかる。まあ無理だね」 ズドーンと擬音語がつきそうな位に土方が落ち込む。 …さすがにいじめすぎたかな。 「まあ、ドレスが無いだけでパートナーになるのが嫌な訳じゃない。安心しな。いざとなればテーブルクロスでも立派に着こなしてやるからよ」 "明日になれば、案外ドレスが届くかも知れないし" 笑いながら胸を張ると、奴もはにかみながら笑った。 大丈夫、テーブルクロスもなんとかすればドレスになる筈だから。 同じ布だ、うん…。 次の日の朝、昨日の俺の言葉は現実になる。 贈り主不明の宅配便が届いたのだ。 土方と恐る恐る確認すると、中から出てきたのは漆黒のドレス。 夜闇みたいな真っ黒なドレスに、アクセントの真っ赤なリボンが目を引く、控えめながらも存在感のあるドレスだった。 「誰だ、コレ送ってきたの…」 土方は俺に似合うのがムカつく…、とか、サイズいつ測ったんだ…とかブツブツいいながらドレスを持ち上げる。 すると、カサリと何か…メモのようなものが床に落ちた。 拾い上げて目を通すと、懐かしいその文字に、自然と微笑みがこぼれてくる。 「誰からだ?」 「新八から。俺に、ドレスがないだろうからって…」 「全てお見通し…ってやつか…」 「…うん」 本当は、この手紙を書いたのは新八じゃない。 俺の双子の兄、銀時からだった。 『久遠、元気か? お前が急に屋敷を出て行ってから、もう6年も経つ。最高に心配したけど、お前の居場所が解って安心した。 どうせ、パートナーにされて、パーティーで着るものがないだろうから、俺が選んだドレスを送っておく。サイズはピッタリだから。 …じゃあ、パーティーで。 銀時より』 やっぱり銀はなんでもお見通しなんだな。 それもそうか…、双子の兄弟なんだし。 土方に隠したのは、いずれバレることだけど、今はまだ、奴の隣にいたいからっていうのは、虫が良すぎるだろうか? 「…久遠」 「ん?」 「命令だ」 「なんでしょうか、旦那様」 机に腰掛けて、指を組んだまま、ニタリと土方の口角が吊り上がる。 あ…相当嬉しいんだな、コイツ。 …素直な奴め。 「明日、そのドレスを着て、俺と共に晩餐会に出席しろ」 「…御意」 パーティーや、晩餐会… 表舞台は嫌いだ。 けど… お前となら、命令なんかされなくても一緒にいってやるのにな。 「旦那様、誰ですかこの女性…」 ドレスアップした俺をみた、山崎の第一声。 まあわからないのも当然で、俺の銀髪はカツラを被って土方と同じ色、しかもロングになってるし、薄くだけど化粧もしてる。 「あら山崎、私よ。気がつかないの?」 「えっ、ちょ…久遠さんですか?!凄いお綺麗で、全然解りません!!」 そんなに絶賛すんなって、照れるから。 ただ土方は、俺がカツラを被ったことと、口調を変えたことがなんだか不服なようだった。 「お前…口調戻せ、気持ち悪い」 「命令、ですか?十四郎さん」 不服そうに頷く土方。 ちぇ…つまんねェの… 「髪も、なんでカツラ被ったんだよ?俺は、あの銀髪が好きだったのに…」 「この銀髪、目立つからね。後々の面倒は避けたいだろ?ほら、そろそろ行かなきゃ遅れるぞ」 まだ何かいいたげな土方を、無理矢理馬車に詰め込む。 馬車の中ではなんの脈絡もない世間話をして、山道をしばらく走り、天野邸に到着した。 「久しぶり…だ…」 本当、六年ぶりにここに帰ってきたよ。 あの時と今じゃあ立場が全然違うけど、この鳥かごのような息苦しさは全然変わらない。 「……ほら、手ェ出せ」 「…はい」 普段とは真逆の土方が、俺をエスコートしてくれる。 土方の差し出した手を握って、ゆっくり歩いていく。 普段はがさつな土方だけど、今日ばかりはまるで違って、俺の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれる。 なんだかんだいいながら、やっぱり土方は優しいんだ。 「招待された、土方だ。中まで頼む」 「畏まりました。こちらへ…」 白髭の、俺の知らない執事が会場まで案内してくれた。 中も、会場のホールもなにひとつ変わってない。 会場につくと、すでに宴は始まっているようで、音楽に合わせて踊る人々が沢山いた。 「凄いな…」 確かに、人数が半端ない。それもそうか、新八に聞くかぎり、傘下や同盟を結んでいる会社、全部招待したみたいだから。 「大丈夫ですよ、十四郎さん。私がついてますから…」 「…生意気言うな」 そういってそっぽを向いた土方の顔が、微笑んでいた気がしたのは、もしかして俺だけか… 一曲終わって、人の動きが止まる。 こちらに向かう人混みの中に、知り合いを見つけた。 「トシ、お前も来たのか?」 「女なんて連れて、死ねよ土方」 「テメェも連れてんじゃねェか!!」 沖田くんと、ゴリラ。 二人とも女性を連れている。 「お久しぶりです土方さん、この間はうちのゴリラがすみません」 気物を着た、美しい女性。 この人がゴリラの許婚?! ありえない、イメージが重ならない。 ゴリラが『お妙さん!!』と連発。そうか、この人は妙さんというのか…。 「いや…構わねェよ」 「久しぶりネ、マヨラ。ところで、この間サドが言ってた執事はどこネ?私、それ楽しみにして来たアル」 チャイナドレスを着た、16歳位の女の子。 この子が神楽ちゃんか…。 こっちもまた随分とイメージが違うな… 「今日は久遠ちゃん、着てないのか?」 戸惑う土方の視線が降り注ぐ。 まったく、コイツは自分でなんとか出来ないのか? ため息をついて土方の影から進み出る。 当然、突き刺さる視線。 「私が久遠ですよ、近藤様。今日は、執事であることを隠して来ております故、十四郎さんの遠縁のイトコ、ということにしております」 「綺麗に化けやしたねィ、アンタ執事より、スパイの方が向いてそうでさァ」 「ありがとうございます、沖田様。最高の褒め言葉ですよ」 君はきっと、拷問とか似合いそうだね。その腹黒さとか、サドっぷりとか、まさにピッタリさ。 そんな事を話していたら、また音楽が流れ出して、みんな踊りに行ってしまった。 「十四郎さん、一曲、お相手願えますか?今日ばかりは、貴方をダンスに誘える立場ですから、是非…」 「おま…踊れるのかよ?」 「ええ、勿論。ワルツは得意でございますよ」 俺様に不可能はない。 ニッコリ笑って手を差し出すと、土方は呆れたように呟いた。 「お前…一体何者だよ」 「私…ですか、私は旦那様の執事でございます」 そう―… 私は『ただの』執事だ。 超万能の、ね? 「…聞いた俺が馬鹿だった。…行くぞ」 「はい」 差し出された手をとって、俺達もホールの中央に踊り出た。 土方は流れるように綺麗に踊って、周りの奴らも土方に見惚れていた。 一曲終わって止まったら、土方は女の子にさらわれて消えてしまった。 ま、予想はしてたけど… 独りになって呆然としてたら、一人の男が目の前に進み出た。 「似合うじゃん」 "さすが、俺" 懐かしい声に、勢いよく顔をあげた。 こんなに変わっていたのに、気が付いてくれた。 何も言わずにでて行ったのに、受け入れてくれた。 「銀…逢いたかった!!」 俺の、たった一人の双子の兄弟が、目の前に…触れられる位置にいた。 〜続く〜 [*前へ][次へ#] [戻る] |