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久遠の空 【完結】
2.予想外の手紙


朝起きて、郵便受けの中を覗く。
執事になってから増えた、日課のひとつ。

その中には、手紙が二通。


『今日、遊びに行きます』


今思えば、これが地獄への片道切符だったのかも知れない。


「旦那様、お手紙が届いております」

「気色悪ィ。敬語禁止。誰からだ?」


俺が執事になってからというもの、土方は他人がいるとき以外の敬語を禁止した。
敬語使わなきゃ執事っぽくない!!っていうことで、毎朝試して見るけど、『気色悪い』と一蹴。
ナイフで串刺しにしようかとも思った。けど、よくよく考えたらこっちの方が楽だと、断念した。


「近藤勲様からと、沖田総悟様から。『今日、遊びに行きます』。…内容は二通とも同じ」

「ゲッ…マジかよ。久遠、奴らが来たら閉めだ…」


土方が額に手を当てて、苦虫を噛み潰したような顔で言う。
けれど、その言葉を遮るようにドアが勢いよく開いた。

そこにいたのは、栗色の髪をしてフェンシングの剣を構えた……少年?


「死ねー土方コノヤロー!!」


彼はそのまま土方に向かって躍りかかって行くが、俺だって一応執事だ。
土方を死なせる訳にはいかないから、ナイフで剣を受け止める。


「我が主に何かご用でしょうか、お客様?」

「俺の剣を受け止めるたァ、ただ者じゃあありやせんね」


そうは良いながらも、諦めたように笑いながら剣を引いた。


「総悟、テメェはまたそれか。近藤さんは?」

「それならもうすぐ…」


その時、ちょうど入口で物音が聞こえて反射的にナイフを投げると、それは侵入者の顔の真横に深々と刺さった。


「あれ?すっごい歓迎だね、トシ」


泣きそうな顔で微笑むゴリラ似の男。
指示を求めて土方を見れば、眉間を押さえて首を振った。


「やめろ久遠。二人とも、俺とダチだ」

「失礼いたしました。では、失礼ついでに紹介して頂けますか?」


土方に聞くと、ゴリラ似の男は近藤勲さん。近藤商事の社長。栗色の髪の少年は天野家傘下、沖田家の長男だそうだ。こいつら三人+ザキは幼なじみらしく、会う度に挨拶代わりに命を狙われるんだとか…


「トシ、この人は一体…」

「ああ、コイツは天野久遠。俺の執事だ」


天野と聞いて沖田くんはピクリと眉を動かした。
なんか嫌な予感…


「珍しいな、トシが山崎以外の奴をそばに置くなんて…。相当気に入ったんだな、顔も綺麗だし…」


ニコニコ笑うゴリラは、俺が女だと微塵も気が付いていないご様子。
ま、俺様の変装は完璧だし当然だな。


「久遠、茶を頼む。ついでに山崎も呼んできてくれ」

「畏まりました。では客間にご案内いたしますのでこちらへ…」


三人を客間に通してからザキを探しに行く。
奴は、中庭で呑気にカバディしてやがった。


「山崎クン、楽しい…?」

「はい、とても!…って久遠さん?!スンマッセン!!」

「仕事しろやァァァァァ!」


ザキをダーツの的代わりにしながら客間へ突っ込み、四人分のティーセットを用意して客間へ戻る。


「お待たせ致しました。どうぞ、お楽しみ下さい」


順番にカップを置いていくと、ゴリラが不思議そうに声を上げた。


「あれ?君の分はないの。一緒に飲めばいいのに…」

「ええ、私は執事ですから。お気持ちだけ、頂いておきます」

「山崎も座ってんだ、久遠も座れよ」

「旦那様、山崎は別にございますよ。それに、私まで座ったら、誰が給仕をするのですか?」


微笑みながらそういえば、土方は不服ながらも頷いた。
フッ…勝った。


「あ、そうだトシ。お妙さんから伝言があってな。今日、弟が邪魔するからよろしく…と」

「弟?」

「ああ、天野家の次期当主の銀時さんに仕えているんだそうだ」


ビクリ…
いきなり知ってる名前が出てきて、大袈裟なくらい肩が揺れた。
沖田くんだけが、何かに気が付いたようにニタリと笑う。
もーヤダァァァァァ!!
この子絶対にドSだよォォォォォ!!


ゴリラと土方は何にも気がつかずに話しつづける。


「そういえば、あんたらの許婚、どうした?いつも一緒に来てただろ?」


どうやらこの人達、許婚がいるらしい。
意外だ…
ゴリラに許婚…。ダメだ、想像できない。


「今日は俺のとこチャイナ娘と買い物だそうで、フラれてやしたぜィ」

「へえ、そうか。……お、来たみたいだぜ」


軽快な呼び鈴の音が、玄関から聞こえてくる。
きっと俺の知ってる新八とは違うはずだ、と念じながらドアを開ける。


まず最初に見えたのはサラサラの黒髪。
それからなんの取り柄もない地味な顔に、ただの眼鏡…

ああ、予想があたっちまった…


「久遠…さん?」

「うん。…お久しぶり…っていうのかな、新八…」


ああ、俺の知ってる新八だ。『あの家』を出てからもう6年、懐かしいな。


「なんでアンタがこんなところでそんな格好しているんですか?!天野家の令嬢ともあろう方が…!!」


泣きそうな新八の頭に手を乗せて、くしゃくしゃっと撫でてやる。


「ごめんな、急にいなくなって…。銀時、元気?」

「スッゴく心配して、血眼で久遠さんのこと探してますよ。双子の兄弟なのに…なんで一言も言わずに…」

「そう…だよな」


銀時は、顔は似てないけど双子の兄。
お揃いの銀髪と紅い瞳だけが、兄弟である証だ。


「やっぱりですかィ、久遠さん。おかしいと思ったんでィ」


背後から声をかけられる。驚いて振り向いたら、沖田くんが柱に寄り掛かって立っていた。


「沖田…様…」

「いやァ、最初は気がつきやせんでした。けど、これでハッキリした。アンタ、天野家の家出した一人娘だったんですねィ」

「ええ…。よく、お気づきになりましたね。私は、兄と違い表舞台には立ちませんでしたのに…」

「一度だけ、パーティーで見たことがありまして。だから、思い出すのに時間かかっちまった」


パーティー…
一度だけ、どうしてもと言われて出たパーティーで見られていたなんて、なんて偶然なんだろう。


「バラしますか、あの方達に…。私の正体を…」


バラされても、私は何も言えない。騙したのは、私だから。

きっと私は屋敷に戻って、篭の鳥に戻ってしまう。私は、あの家に翻弄され続ける運命なんだ。


彼はニヤリと笑って、ハッキリと言い切った。
それは、とても意外な答えだった。


「バラしやせん、一言も…」

「…なぜ?」

「面白いからでさァ。アンタが土方コノヤローの執事の方が、奴を殺す時に更に楽しめまさァ」


ニタリと笑う沖田くん。
そうだね、君はそうだろうね。
俺と剣を合わせていた時だって、すごく楽しそうだったもんね。


「そういうわけなんで、俺は客間に戻りやす。あ、俺の事は総悟でいいですぜィ」


沖田くんは片手を振りながら、歩いていった。


「食えない男ですね、彼…」

「うん。でも信用できるよ」


だって、土方の親友だからね。
なぜかアイツの周りの人間は、この世界では珍しく、無条件に信用できる。


「あの家に、戻ってくる気は…」

「無いね、今のところ…」

「銀さんには知らせますか?僕、手紙とか伝言なら伝えられますけど…」

「じゃあ頼む。今からじゃあ遅くなるから、今日は泊まっていきな。ゆっくり話したい」

「じゃあ、お言葉に甘えます。あとこれ、本家からの招待状になります」


招待状?
なんじゃそら…


「今度、傘下のグループみんな集めてパーティーするって…。とりあえず、渡しておきますね」

「ああ。茶の準備するから客間でまっててくれ」

「いや、僕がやりますよ。久遠さんにそんな事させるわけにはいきませんから!!」

「俺、今執事なんだけど…。じゃあ、二人でやるか」


二人で準備して、客間に戻ると、開けた瞬間ゴリラに飛び付かれた。


「ねえ、久遠さんが女の子だって本当?!嘘だよね?こんなに格好いいのに!!」


なんだ、そんな事か…
マジで気が付いて無かったのかこのゴリラ…

土方をちらりと見ると、ため息をついていた。
…使えねェ、フォローしろよフォロ方ァァァァァ!!


「本当ですよ、近藤様。なんなら、今ここで脱ぎましょうか?」


ま、胸は無いが脱いだら信じるだろ。


「ちょっ…久遠それはやめろ!!」

『いや、久遠さん、お願いします!!』


近藤さんだけじゃなく、山崎まで反応しやがった。土方はといえば、さりげに鼻血流してるし、沖田くんはカメラを……ってなんだこいつら!!


「すみませんが貴方方、ダーツの的にしてもよろしいですよね?」

『スンマッセンでした久遠様!!』


ナイフ構えながら笑ったら、全員土下座。
ま、当然だな。


まあ、こんなに賑やかだったから、俺の頭の中からパーティーの事は消えていた。

そう―…
新八から招待状を受け取ったのがそもそもの間違いだったんだ。

俺がそれを後悔したのは、ちょうど次の日。
新八から貰った封筒を開けた時だった。

手紙の内容が、そしてそれを見た土方の反応が、最悪だったから…



〜続く〜

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あきゅろす。
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