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久遠の空 【完結】
プロローグ



俺が『奴』に出逢ったのは、9月の末。
寒い、路地裏での事だった。



「ザマーみやがれ!!人の女、寝盗るからだ」

「別に…寝盗ったつもりはない。アンタの女が誘ってきたんだ。文句なら、アンタの女に言うんだな」

「なんだとクソ女!!」



俺をボコボコにする、この男達は、この界隈を縄張りとするマフィアの末端構成員。
そんな男達になぜ俺がボコボコにされていたかと言えば、そいつらの中の一人の女に、手をだしたから。

いや、正確に言えば手を出した訳じゃなく、女の方から誘ってきたんだ。

断れば、金払うからって無理矢理宿に連れていかれて、女だって言っても聞きやしない。
それに、同意の上で女から脱いで、誘って来てるんだから俺は完璧無実の筈だ。
女が女を抱くって、俺だって出来ればしたくない。俺はちゃんとノーマルだから。
でも、こっちだって生活かかってるし、その子達から貰う金貨は正直魅力的。

実は今日みたいなことは今までたくさんあった。
だけど、自慢の足を活かして逃げきってきた。
でも、奴らも馬鹿じゃない。今日は路地に追い込まれて、挟み撃ちにされて、今まで誘ってきた女の旦那に袋叩きにされた。

自分が女だっつっても信じやしない。揚句の果て、なけなしの金で買った綿のシャツを破かれて、ちゃんと胸があるのを確認し、ようやく奴らは信じた。まさに踏んだり蹴ったりだ。


そいつらは俺を好きなだけ殴る蹴るすると、俺をそのまま路地裏に捨て置きどこかに消えた。

降りしきる雨が、身体に堪える。雨宿りしようとしても、思うように身体が動かない。
額が切れて、そこから流れる血で、左目が潰れていたし、頭から足の先まで鈍い痛みが襲ってきて、意識が遠退く。


そんな時だった。
頭上から、声が聞こえた。


「テメェ…何してんだ?…死ぬぞ」


んなことわかってるよ
放っとけコノヤロー。


「煩い…黙…れ……テメェ……が…死ね」


なけなしの気力でなんとか返事すると、そいつはなにがおかしいのかクツクツ笑った。


「山崎、コイツ連れて帰るぞ。持ってこい」


そいつの命令で担ぎあげられる。
なんだよその物みたいな扱いは…
仮にも女だ。
もっと丁重に扱いやがれ。


……と、ぼんやりと思ったが言葉にする元気はない。
大人しくされるがままの俺をみて、そいつは気を良くしたのかなぜか楽しそうだ。

どこか…フカフカな所に横たえられて、俺は完璧に心が折れた。

山崎という人間と、男が話すのを聞きながら、俺は気を失った。



―――――――――――


ん…なんだここ…
天国?
んなわきゃねェ。
あんだけ悪事を働いたんだ、俺の行き先は地獄だろ?


「お…起きたか。寝心地はどうだ?」


……
………
…………

俺、フリーズ。


誰だ、誰だ、誰なんだこの真っ黒。
は?俺、なにかやらかしたのかまさか?!
男と寝た覚えなんかねェぞ俺?!


逃げようとしても身体中痛くて、しかも頭がパニックで身体を動かせない。


しかも俺と奴はなぜか…


「ハ…ハダカ……!!」


なぜだ?
俺は寝ている間に服を脱ぐ癖はない!
俺だけならまだしも(それでもあまり良くない!)なんで真っ黒まで裸?!


「ギャ――――!!変態!」


かけられていたタオルケットを見に纏い、真っ黒に勢いで正拳突き。
奴は見事にベッドから転がり落ちて、綺麗な上半身が惜し気もなく晒しだされる(下は履いてた)。


「まったく…強烈な挨拶だな。…ますます気に入った」


なにか言いたくても、言うべき事がなにも出てこなくて金魚みたいに口をパクパクさせていた。
そんな俺を見て、真っ黒はさらに笑い出す。


「テメェの名は?」

「天野…久遠」


ゆっくりとベッドに近付く真っ黒を睨みつけながら、固い調子で答える。


「そんなに警戒するな。俺は土方十四郎。テメェが気に入った」


奴…いや、土方と名乗った男は誰もが惚れそうな男臭い顔でビックリすることを口走った。


「テメェには今日から、この屋敷で働いて貰う。返事は『はい』だけだ、わかったな久遠」



そう、これが俺と土方の出会い。

これから俺の、とんでもない日常が始まる。



〜続く〜

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