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恋の主導権(沖田)
銀魂 沖田総悟
『恋の主導権』
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この角を曲がれば、彼はきっとそこにいる。
「そーごー」
走る私は姿も確認しないまま、彼
の名前を呼ぶ。
日差しも柔らかく、穏やかな春の日。
こんな日は彼は仕事なんかしていない。だからきっと甘味屋で団子片手にうとうとしているに違いない。
勢いよく角を曲がると、惚けた声がした。
「…うるせー…」
「やっぱりさぼってる」
思った通り、総悟は甘味屋の外におかれている長椅子にだらしなく腰掛け、日光を浴びていた。
声の調子からして意識は眠りの世界へと飛びかけていたのだろう。
「なんでィ…いつもいつも、俺の安眠を邪魔すんじゃねぇや」
「だって土方さんが言ってたもん。さぼってる総悟見つけたら叱っとけって」
そう言うと、総悟は恨めしそうに私に顔を向ける。
「いつの間に土方さんに手懐けらてるんでィ。そんなん無視しとけ。…あ、あと年上を呼び捨てにしないよーに」
「2コしかかわんないじゃん」
そう反論して、私は総悟の横に跳ねるようにして腰掛けた。
「団子三本で見逃してあげる」
私がニヤリと笑うと、総悟は渋々店の主人を呼んだ。
そしてしばらく総悟におごってもらった団子を頬張りながら、ぼんやりした時間を過ごしていた。
「今日は寺子屋休みかィ」
「ううん、半ドン」
そう言葉を交わしたきり、総悟は黙ってしまった。眠っているのかもしれない。
私はお茶を啜りながら、心地よい空気に身を置いていた。
総悟は私をいつも子供扱いする。
年上ばかりの環境で生活しているから、たまには年上ぶりたいのかもしれない。
なんだか妹扱いされているようで不服だが、ちょっと可愛いとも思ってしまう。
そもそも私は土方さんのファンだった。町で真選組の活躍をたまたま目にしてから(正直土方さんしか見えてなかった)、度々土方さんにまとわりつくようになった。
土方さんは私より大分年上なので、それこそ私を妹のように扱っている。私も好みのタイプどストライクといえど、本気で恋心を抱いているわけではない。いわゆるミーハー心なのだ。
そうしているうちに総悟と出会った。土方さんのとの交流の中で度々ニアミスしていたからだ。最初は全然眼中になかったけど、少しずつ言葉を交わすうち、気づいたら大好きになっていた。
理由は未だに謎。ただ、時々可愛いくて、ぎゅーっとしたくなる時がある。
隣で寝息をたてている今も、隙をみて髪を少し触ったりしてみる。
「…なんでィ」
予想外に返ってきた声に、一瞬固まってしまう。
「あ…えと、ゴミが!髪にゴミがついてたの!とってあげたんだから感謝してよ」
焦るあまり、可愛いくない一言を追加してしまった。
「ありがとー」
抑揚なくそう言うと総悟は、椅子から立ち上がった。
「どこ行くの?」
「仕事に戻るんでィ。土方さんに言いつけられたら面倒だからな」
自分で言っといてなんだが、もっと一緒に居たかった。私がつまらなそうな顔をすると、それを察してかそうでないのか、総悟は振りかえってこう言った。
「一緒に行きやすか?」
多分私は思いきり明るい顔をしている。隠そうとしても顔に出るタイプなのだ。
「…いーの?」
「屯所もどるだけだし、ついてくるくらい別にいいだろィ。ちょうどこの時間なら土方さんもいるし」
歩き出した足が私だけ止まった。
「どうした?」
総悟は鈍感である。前から思ってたけどやっぱりそうなんだ。私は一人で納得した。
私が土方さんを本気で好きだと思っている…!
「あの…総悟?」
私は恐る恐る言葉を紡ぎ出した。
今日こそ弁解してやる。いつも可愛くない言葉で誤魔化してしまう気持ちを、少しは総悟に見せてやるんだ。
そう心の中で密かに意気込む。私はこの鈍感勘違い男にもう我慢の限界だった。
このままじゃ一生自分を意識してもらえないんじゃないだろうか。
「私…好きな人がいるの!」
「知ってる」
総悟は何を今更という顔でこちらを振り返った。そしてまた元の方向に向き直る。
いやだから、違うの。土方さんじゃないの。目の前にいる君だから。
そう言いたかったが、体の力が抜けてしまった。
私は総悟の後を無言でついていく。すると総悟が前を向いたまま、ふいに口を開いた。
「…でも正直素直に応援できないんでィ」
その言葉には少し陰があった。私は総悟の背中を見つめる。
「…何が?」
「お前と土方さんのこと」
なんだかいつもの総悟じゃないみたいだ。いつもは総悟に土方さんの素敵さを語っても、生返事しかしてくれない。
でも今回は続きもどかしい言葉に胸が高鳴る。
「俺には関係ないはずなのに」
「何故か不安で…」
総悟が夢のような言葉を並べ立てる中、私の頭では乙女思考がフル回転していた。こんな状況で期待するのは私だけではないはずだ。
私は勇気を振り絞る。
「総悟、私本当は…!」
「副長がロリコンなのはちょっといやかなりヤバいんじゃねーかって」
一瞬時が止まった。
「ろ……ろ!?」
「いや、ろじゃなくてロリコン」
「二回言わなくていい!!」
今まで展開していた乙女思考は見事に予想を裏切られ、雰囲気も何もかもがぶち壊しだった。
この鈍感勘違い男…。
「土方さんの歳から見たらおめーなんてガキんちょじゃねーかィ。でももし万が一上手くいったとしても、真選組副長がロリコンなんて噂が流れたら、真選組の信用にかかわる」
「はぁ…」
私は大袈裟にため息をついた。
本当に土方さんとくっついてやろうかしら。
「あー分かった分かった。じゃあ今日も土方さんに愛を届けにいきますよー。ロリコンの部下なんてお気の毒に」
「ま、土方さんが本気でおめーみたいなお子ちゃま相手にするわけねーけど」
「…あによ」
どこまでも憎たらしい奴だ。私が軽く睨むとその視線から逃げるように総悟は一歩足を進めた。
「胸も色気もないし」
「発展途上だバカ」
「中身もまんま子供だし」
「あんたには言われたくないね」
「おまけに本当に好きな相手には憎まれ口ばっかで可愛くねぇ」
「それは総悟が意地悪するから…」
またしても時が止まった。
「…ほ!?…す…!?」
「好きな人って俺だろィ」
何の疑いもなく、飄々と言い放つ。
「あんたまさか…知って!?」
「おめーの考えてることくらい分かるっつの」
そう言う背中はなんだか上機嫌。
それとは反対に私の頭の中は焦りとか恥ずかしさでぐちゃぐちゃだ。
私は大事なとこを忘れていたのだ。鈍感勘違い男の前に、総悟は筋金入りのドSだった。
私の気持ちを知っててずっと、気づかないふりを演じてきたのだろうか。
ようやく想いを知ってもらえて当初の目的は果たせたというのに、なんだか納得いかない気持ちでいっぱいだ。
「意地悪、陰険、ドS…」
「どれも誉め言葉でさァ」
もう、彼には勝てそうもない。
私が不服な顔をしていると、総悟が小さい声で
「お互い様」
と言った。
「俺の前で土方さんにあんなに笑顔向けられりゃ、意地悪したくもなるっつの」
呟いたような言葉だったけどはっきり聞こえた。もしかして、形勢逆転の可能性もなくはない?
「総悟、賭けをしよう」
「なんでィいきなり」
振り返る総悟に、私は不敵の笑みを浮かべた。
「総悟がロリコン部下になるかならないか、全ては総悟の行い次第よ」
「はあ?」
「私を土方さんのところに行かせたくないなら、ちゃんと私を捕まえておくことね」
どこかで聞いたようなドラマの台詞を並べてみる。
「あーあ調子にのって…」
面倒くさそうな総悟を追い越して私は歩き出す。屯所に着いたら土方さんに全部話そう。そして協力してもらうんだ。
主導権争いはもう始まっている。
ムードの無い恋愛成就後の一時。このままではあんまりなので、ずっと言いたかったことだけ口にしてみる。
「好きだよ、総悟」
「まぁ俺も」
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