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過去拍手
さよならと君へ(土方)


それは魔法の言葉だった。




「さよなら、土方さん」


これで全ては無に帰す。
綺麗サッパリと、ね。


右手にキャリーバッグと左手に少しの荷物を抱え、私はスタスタと歩いてゆく。もう少しで真選組屯所の門を抜けるところだ。


すると、急にキャリーバッグが重くなる。
振り返ると土方さんがバッグを掴んでいた。


「…何してるんですか」
「お前こそ、どういうつもりだ」

「どう…って、見ての通り出て行くんですよ?」
土方さんは煙草を加える。雨が降っているせいか、火が付けづらそうだ。彼の不機嫌さは増していく。


「なんで急にそうなんだよ、許可なんか出しちゃいねぇぞ」

「許可なんていりませんよ。私は出て行きたいので、ただ出て行くだけです。さよなら」


私は再び歩き出す。

すると今度は肩を掴まれた。

「何が原因だ」

真面目な顔して私を正面から見つめる。

やっぱり男前だな。
一瞬、もう少しここにいようかななんて気が起こってしまう。

だけど私は本気なのだ。

「そんなことも分からない土方さんなんて嫌いです」

「放してください」と冷たく言い放つ私に、土方さんは呆れているようだった。

また歩き出す私を引き止めるのはやめたらしい。

門を越えようとしたとき後ろで声がした。


「理由は分かってんだ」

それを聞いて私は立ち止った。
振り返ると土方さんは雨にぬれて立っていた。

黒髪から滴が落ちる。


「理由は分かってんだよ。お前が出ていきたいなんて言うときはなぁ、たいていこんなことだろうが」

「…なによ」

私がそう言うと、土方さんは左手に持っていたスーパーの袋をゴソゴソとしだした。

そしてそこから取り出したものを天に掲げる。



「バーゲンダッシュ、抹茶味しかもファミリーパックだ!!」


「!?」



天に瞬く素敵なパッケージ。
不思議と雨も少しずつ上がっていくようだ。

それを見た私の目はとても輝いていた。らしい。

「ば…バーゲンダッシュ…」

私は走り出す。
もちろん土方さんのもとへ。





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ついさっきのこと。
私はやっと女中の仕事が終わり、冷凍庫をあさりだす。

買っておいたバーゲンダッシュがあったはずだ。こんな暑い日には冷たいアイスに限る。

しかし、愛しのアイスの姿はそこにはなかった。

「あれ、なんで…?」

部屋の近い土方さんにでも尋ねてみようと足を向かわせると、障子が少しだけ開いていた。

「土方さん、私のアイス…」

しかし私がそこで目撃したのは、私のものっすごく楽しみにしていたアイスを完食している土方さんの姿。

しかも完食してるくせに、「うぇ、甘…」とか言ってるし。

ショックを受けた私は荷物をまとめ出した。









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「バーゲンダッシュぅぅ!!!」

全力疾走した私は土方さんに抱きついた。

「うぉっ…」

突然の衝撃に土方さんは少しよろける。


「…よく分かりましたね」 

「これで何度目だと思ってんだお前。いっつもくだらねぇ理由でふてくされやがって」

「くだらなくないですよ!!私それはそれはショックで!!」

「分かったから帰んぞ」

そう言うと土方さんは、放り出してきた私の荷物を抱えだす。

そんな姿を私はじっと見ていた。


…くだらないといいつついっつも付き合ってくれるんですね。
引き止めてくれるんですよね。

やっぱ男前だわこの人。




それは魔法の言葉です。


「ただいま土方さん!!!」

「…うるせ」


これで全てなかったことに。





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あきゅろす。
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