小説(短編) ★AGATE〜博愛主義のあなたへ〜(龍蓮×楸瑛) 博愛 『すべてのものを分け隔てなく愛すること』 AGATE〜博愛主義のあなたへ〜 「はあ」 主上と共に貴陽に帰ってきた楸瑛は、藍貴陽邸の自室で妹と幼なじみの悲劇を思って、溜息をついた。 一体、何がいけなかったのか…。 大元は父の博愛主義の気もするが、それとてさしたる問題ではないのかもしれない。 互いが互いを大切にしていた。 まごう事無く、愛し合っていた。 けれど…互いが互いに…………………………負い目を持っていた。 それこそが、原因なのかもしれない…。 ドサリと寝台に自身の体を投げやって、楸瑛はまた息をつく。 静かに、目を閉じた。 「何をしている?」 不意に、声がした。 「あ…」 気付けば、龍蓮が室の入り口に立っていた。 彼はゆっくりと楸瑛に近付くと、寝台に―楸瑛の頭の横に―手をつく。 「何を考えている?」 もう一度―今度は先程よりも強く―龍蓮は問いかけた。 「それは…」 「十三の事か」 言い淀む楸瑛の心を見透かしたように龍蓮は言葉を重ねた。 「アレがああなったのは、誰が悪い訳でもない。 まあ、強いて言うなら司馬家の前当主であろう」 言いながら龍蓮はゆっくりと身を屈める。 「んっ」 柔らかく降ってきたソレは徐々に激しさを増した。 まるで、他事を考えるなというように…。 しかし、楸瑛は頭を振った。 「だめ…龍…」 「アレは覚悟を決めている。楸兄上か今更何をしようと変わらぬ」 十三姫を想って行為を止めようとした楸瑛に龍蓮は淡々と告げた。 しかし… 「違うよ…」 龍蓮の予想を楸瑛は否定した。 「何が違う」 「十三姫の事は、きっと主上ならよくしてくれる。その心配はしてない。でも… 駄目」 「どういう意味だ」 「私は、藍家を勘当された。今、私が藍貴陽邸に居られるのはお前がいるからだ。だから…駄目。 『藍』楸瑛でないのなら、私も利用する一人になるよ」 「勘当されたのではなく、勘当させたのだろう」 「それでも…」 「聞かない。それは楸兄上の我が儘だ」 「龍蓮…」 悲しそうに自分を見上げる愛しい人に、龍蓮は告げた。 「十三と司馬迅。あの二人は確かに愛し合っていた。だが、互いに負い目があった。故の悲劇だ。 兄上が懸念しているのは、それか?」 楸瑛は黙って目を閉じた。 それを肯定と受け取って、龍蓮は更に続けた。 「では、聞こう。愚兄は今まで、私に何の負い目もなかったか?」 龍蓮の言葉に楸瑛は目を開いた。 「え…」 「なかったか?少なくとも、私はあった」 思いがけない告白に楸瑛はただ弟を見つめる。 「一体…君に何の負い目が…」 負い目があるのは自分のほうだと、楸瑛は呆然とする。 「君は…知っているだろう?」 『藍龍蓮』の襲名により、楸瑛を包み込むものは確かに変わった。 そのせいで、ずっと弟を遠ざけてしまって…。 「私は…」 「私も、同じだ。私が『藍龍蓮』など継いだから、楸兄上は自分を抑えなければならなかった」 「そんなことっ」 「していないとは言わせない。私を守るために…どれだけのことをした?」 龍蓮の言葉に、楸瑛は目をそらした。 「それだけではない。今もこうやって…私は自分の気持ちを抑えられない。 兄上を禁忌の道に…」 「それは、君だけのせいじゃないっ私だって望んだことだっお前が、負い目を感じる必要なんてないっ」 叫んだ楸瑛に龍蓮は微笑した。 「そう…そうやって、楸兄上は負い目を感じる必要はないと言ってくれるな」 「え?」 急に変わった話に、楸瑛は戸惑った声を上げた。 「私は楸兄上に、楸兄上は私に。それぞれ負い目がある。それは今も昔も変わらない。十三と司馬迅と同じように」 そう言って、龍蓮は目を閉じた。 それでも…と呟く。 「それでも、楸兄上はその負い目に縋ったことはないだろう?兄上は、私に負い目を感じさせたことも、私の負い目を利用したこともない」 龍蓮の言葉に、楸瑛ははっと弟の顔を見上げる。 「それが、あの二人との、違いだろう」 「負い目を利用なんて…」 「していなかったか?していただろう?どちらも、その負い目に縋っていた」 十三姫は迅の負い目を知っていた。 迅は十三姫の負い目を知っていた。 どちらも、そんなこと気にしないでいいと思っていた。 それでも…。 「ただの一度も、負い目を感じる必要はないとは、言っていなかっただろう?」 「それは…」 「無論、それだけではない。それはただのきっかけにすぎない。それでも…ソレがなければ、何かが変わったかもしれない」 容赦のない龍蓮の台詞に楸瑛は何も言えなかった。 そんな兄を慰めるように龍蓮は口付けを落とす。 「んっ…で、もっそれなら…あっ」 また抵抗を開始した楸瑛を龍蓮は無言で乱していく。 「はっ…もっ…わた…しだって、そんなことああっ」 「言葉にはしていないな。それでも、そんなことを思ってないぐらいわかる。楸兄上とて同じであろう」 「あんっ…は…でもぉ」 状況は何も変わってないのだと、楸瑛は必死に身を捩る。 「利用すればいい。楸兄上になら、構わない」 「そんなの…だめだよっあっ」 かたくなな兄に、龍蓮は苦笑した。 「なら、言っておこう。ココの、藍貴陽邸の主は楸兄上だ」 「は?」 唐突な言葉に楸瑛は思わず聞き返す。 「ここは、兄上が貴陽に来たと同時に兄上のものになった。一度渡したものを取るはずがなかろう?」 「嘘…」 「そんな嘘をついてどうなる?それに、たとえ勘当されたとて、兄上に流れる血は『藍家』のものだろう?何も、変わらない」 「龍蓮…」 「だから、そんな理由で私を拒むな」 「っ…ばかっ」 真っ赤になった楸瑛は、その顔を隠すように龍蓮の唇に自身のそれを押し付けた。 「あんっ…ああっ」 感じるままに喘ぐ兄に、龍蓮は笑う。 「あくっ…ひゃあぁっ」 硬い切っ先が楸瑛の敏感な箇所を掠める。 「もっ…ああんっりゅうれんっだめぇ」 「何が、駄目だ?」 「も…でちゃっ…だめぇ」 「構わぬが?」 「いっしょ…じゃなきゃ…やだぁ」 「可愛いことを…なら、兄上。力を抜け」 「はんっ」 楸瑛が言われるままに力を抜いた時、灼熱の塊が更に深く楸瑛のナカに入り込んだ。 「ああああっ」 「っ…いい、か?」 「んんっ…いいっも、きてぇ」 艶を帯びた声に誘われるままに、龍蓮は深く突き上げた。 「きゃあんっ…も、むりっあっあっ…あああ―――」 「くっ」 高い楸瑛の声に誘われるままに、龍蓮も楸瑛のナカに精を吐き出した。 後始末を終えて… 深く眠る楸瑛の髪を撫でて、龍蓮はふっと苦笑した。 この兄は本当に優しい。 十三姫のことは、龍蓮から言わせればそうなる定めだったのだ、とそれだけだ。冷たいといわれるかもしれないが、その道を選んでしまったのは他ならぬあの二人だ。 「それでも、兄上は考えてしまうのだな」 自分に何かできなかっただろうか…と。 ふっと龍蓮は楸瑛の耳にかかる髪を流した。 そうして、その耳朶に小さな耳環を飾る。 そこに埋め込まれている宝石は「瑪瑙」。 その宝石言葉は「博愛」。 正に楸瑛に似合いの宝石だ。 それから、もう一つ。 「ここにいろ、兄上。誰にも、渡さない」 たとえそれが、王であっても。 「私だけの聖域」 もう一つの宝石言葉は「神聖」。 何よりも大切な親愛なる貴方へ…。 こんにちは、真です。 なんだか意味不明は駄文に…(いつものこと) 無理矢理入れたようなかたちになってしまった「瑪瑙」 しま模様の宝石で七宝の一つです〜。 ちなみになぜ瑪瑙かというと…とある方の漢字から。 一文字目が、しま模様の連なる織物。 二文字目が、宝石の一種。瑪瑙の白いもの。 とありましたので。 縞…宝石…瑪瑙…。 という単純な思考回路から生まれました。 すこしでもたのしんでいただければ幸いです。 それでは失礼致します。 真 拝 [前へ][次へ] |