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「も…、もう一回言って」


テーブルを挟んで目の前に腰掛けている彼女は幼なじみ。友達。職場の仲間。自分を知る数少ない大事な人。
どれが一番適切なのだろうか。
否、どれも正しいので撰ぶ事自体が、根本が間違っていた。

そんな彼女に隠すことなく、盛大に、フレンは大きな嘆息を吐き出した。
何度同じ事を言ったら彼女は理解してくれるのだろうか―――




「エーリル…」
「もーいっかいっ…」


苦味を味わうように顔を引き攣らせて、エーリルはフレンに懇願した。語尾がすっかり掠れ声になってるが正確に伝わっているはずだ。


「これが最後、いいかい?」



問えば彼女は上下に首を振る。取れてしまいそうな程に。


「ユーリが騎士団を辞めると昨夜言い出したよ」



―――ゴン!
その言葉に彼女は額から机に激突した。





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話はこうだ―――

朝、エーリルが食堂へ行けば非番のフレンが席について食事をしていた。
パンではなく米を選んで、いつもと変わらない挨拶を交わし、お馴染みとなったフレンの前に座り、いつもと変わらない美味しい料理を口に運ぶ。

休みなのに私服じゃない彼に――朝から何処かに行くの?と、聞けば


「昨日隊長に引っ越しの手伝いを頼まれてね」


どうやら昨日は自分が非番で、その間に頼まれたらしい。
彼が先に食べ終わっても、


「エーリルが食べ終わるまで付き合うよ。時間もまだ有るしね」



なんて口にするから、一応時計を気にしながら会話をしつつ食事。炊き立てのご飯に焼き鮭は最高だった。鮭の塩加減と脂ののり具合が絶品だ。こんな僻地でこんな良い魚が食べれる事に、仕入れをしている人間にいたく感服する。

料理を平らげ口元を拭くと、フレンがこう言ったのだ。



「報告なんて大袈裟な話じゃないけど」


世間話という感じで、声色は特に変わらなかった。


「ユーリが騎士団を辞めると言い出したよ」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





何度も何度も―――聞き間違えかもしれない幻聴かもしれないと、繰り返し確認したが……
気のせいでも勘違いでも無く、ましてや夢でも無かった。証拠にぶつけたおでこが痛い。空の食器は食べ終わった時に横へトレイごと避けといたので壊さず済んだ。


「ほんとに変わってないね、ユーリは。エーリルが言っていた通りだ。今日までよくもったって所かな」


少々刺々しい言い方なフレン。外見で判断すれば人が良く見えるのにユーリが絡むとこれだ。


「本気だって言うからアイヒープ先輩にも報告済みだ。もう少し考えるように言われていたけど。ユーリの性格上辞めるだろう」



なんとか現実を受け入れ、エーリルは突っ伏したままの頭を持ち上げた。碧翠の瞳と目が合い、彼は薄く笑う。


「残念かい?」
「当たり前じゃん」



渋面で本音を漏らす。

半面、フレンは淡々としていた。ユーリが騎士団員でいる事に異議を唱えていたのは知っているが、態度がさっぱりし過ぎて余計に悲しくなってくる。





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