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「仕方ないさ。短気で飽きっぽい。おまけに忍耐力も無い。負けず嫌いだから向いてないと忠告しても耳に入らない。頭に血が上れば先輩だろうが構わない。この方が良いんじゃないかな、ユーリには」

「……………」


納得出来ない。だけど言い返せない。エーリルは黙りこくるしかなかった。自然に目線も下に落ち、しょぼんと肩も傾く。


(それでもさ……)


気分と共に、更に視線が落ちていく。項垂れきったところで茶っ毛の髪が顔の両端から流れてきて、視界に影を落とした。



(頑張ってたじゃん…)



悔しさに、机の下で握っていた拳に力が入った。爪がやわらかい肉に食い込んで痛みを訴えるが、こうでもしないとやってられない。悔しすぎる。

騎士は無理だと言うフレンにか、辞めると言ったユーリにか。どちらか分からなかったが――
言葉にならない思いで、エーリルは胸中で静かに責めた。




「ユーリなりには努力はしていたみたいだけど」




その台詞に、俯いていた顔をエーリルは驚いて上げた。勢いで、結っていない髪が同時に跳ね上がる。

上げた先で、今度は視線は合わなかった。



「気づいてたの?」


思いがけない言葉に、それ以上出てこない。


「まあね。エーリルよりは少ないけど、無駄に付き合いは長くないよ」



口にしながら宝石のように碧緑の瞳を輝かしながらさ迷わせて、やがて、フレンの瞳は自分の瞳とぶつかった。
途端、引き締まった幼なじみの頬が僅かにゆるんだ。外見上、少しながら優しい顔つきを形どるそれは、微笑みとは言い難い。だが、それでもその表情にエーリルはゆっくり力が抜けた。

つられて、自らも薄く笑う。



「そうなんだ……。もっと無関心なのかと思ってた」
「部屋も同じだから良く見えるだけだよ」


そう話すが最後、フレンは固いいつもの顔に戻る。



「…さて、僕はそろそろ行く。エーリルは?時間いいのか?」
「あ、行こうかな」


先に立ち上がったフレンに続き、同じくエーリルも立ち上がる。

聞きたい事を聞いていないので、さっさとカウンターにトレイを戻しに行く背を、足早に追い掛ける。



「ねぇ、今日ユーリは――」
「同じく引っ越しの手伝いだ」

「そか」



今逢っても何を口にしたらいいか分からない。
だからその予定に少しだけエーリルは安堵の息を漏らした。


そもそもユーリの判断に言いたい事が見つからない。
とめる?罵る?馬鹿な――
ユーリが自分で決めたのだ。多少気分で決意したのかもしれないが。


(それでも……自分で決めたんだ…)



憂鬱な雰囲気を醸し出すエーリルの傍で、気づかれないようにフレンは彼女の横顔をじっと見ていた。









空が暗かった。快晴なはずなのに空が暗かった。それもそのはず、それは空ではないからだ。

日が当たらない犬舎の天井をただ見上げて、エーリルは何をするでもなく、清掃用の道具にもたれ掛かって、ぼおっと突っ立っていた。





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