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-Story1st-
呼び出し

下校時刻――
 レギアはユウジの仲間たちに呼び出された。校舎裏の、気が密集したところだ。あそこは教師たちに見つかりにくい。
 A組の教室の前でシャスタがうつむき加減に言った。
「レギア、お前に相談したいことがあるんだけど...今日いいか?」
 レギアは申し訳なさそうに頭をさすり、言った。
「あー...悪ぃなシャスタ。俺、今日ちょっと用事あんだ。よかったら、ここで聞くけど...?」
「いいや、また今度にするよ。じゃぁな」
 シャスタは笑顔でそう言い、振り返って階段の方へ駆けて行った。レギアが教室の前で不思議に思っていると、後ろから誰かが声をかけて来た。
 レギアが声のした方を向くと、そこにプリントを数枚持ったアイリスが立っていた。
「やべっ!忘れてた」
 レギアは朝アイリスに頼まれていた事を思い出した。あのときした返事はその場しのぎの適当な受け答えだったので、彼は疾風のごとく、彼女の前から逃げていった。
「ちょっと、レギア!」追いかけようとしても無駄だった。
 アイリスの様子を見た転校生が、彼女に声をかけた。
「どうかした?」
「あ、レギアにプリント渡そうと思ったんだけど、まんまと逃げられちゃってさ...。あいつ、前の時間が体育だったのにも関わらず、疲れも見せないのよね」
 腕を組み、苛立たしそうにしているアイリスの様子を見た彼が少し考えてから言った。
「僕がわたしておいてあげようか?」
「いいの?」
 アイリスは遠慮がちに彼にプリントを渡す。転校生はかぶりを振り、かばんを開け、ファイルの中にしまった。
「それじゃ、これで」
 彼はアイリスに会釈をすると、ゆっくりと歩いていった。アイリスはほうきを持ち直し、掃除にとりかかった。
 窓の外で大木がざわめいている。


 レギアは靴を履き替えて、生徒玄関を出ると、息をついた。校庭に指定ジャージを着た男子たちが集まっている。陸上部だ。レギアの知っている男子が彼に声をかけたのでわかった。
 校庭のすみにも、ジャージを着た女子が集まっている。各部活が始まろうとしている時間になっても、日光はさんさんと降り注いでいる。
 レギアは芝生を蹴るように歩き、シャツの袖をまくった。
「さてと...呼び出されてくるか」
 面倒くさ気にため息をつき、大木を横切った。
 校舎裏の気が密集したところが見えると、レギアの影に、大きな影が重なった。レギアが少し横にずれると、背後から鉄パイプが振りかかって来た。
 驚いたレギアはポケットに突っ込んでいた片手を出し、後ろを振り返った。そこには鉄パイプを手から離さないように包帯でぐるぐる巻きにしたユウジの仲間がいた。
「なんだ、お前か...。驚かすなよ、暑っ苦しいぜ」
 レギアは息をついて両手をポケットに突っ込んだ。それは、わざと余裕を見せ、挑発するため、ユウジの仲間が他にもいる事を彼はわかっていたからだ。
「来いよ。まだそこらへんに隠れてるんだろ?いっぺんにかかってきた方が楽なんだ。...出てこいよ」
 声色を変えて、荒々しくレギアが言い放つと、木の陰や草むらから得物を持った6人が出て来た。中にはユウジもいる。
 レギアは、ユウジが頬から湿布をはがすのを見て、鼻で笑った。
「ユウジよぉ...俺にのされたのがそんなに屈辱だったか?オトシマエきっちりつけたかったら、お前1人で来い」
 彼の言葉を聞き、ユウジはつばを吐き捨てた。
「ケッ、てめぇはどーのこーの言ってられる状況じゃねぇんだよ」
 レギアは苛立たしさを通り越して、ユウジにあきれていた。
...全くレベルの差に気づいていない。その思いが渦巻き、彼はため息をついた。
「無駄話はやめて、さっさと決着つけようじゃねーか」
 ユウジがそういうと、得物を手にしたユウジの仲間が一斉にレギアに飛びかかった。
 レギアは勢いよく足を振り、一番手前にいるユウジの仲間の脚を蹴った。蹴られたユウジの仲間は体勢を崩し、地に膝をついた。痛がっているようだ。
 パイプの空を切る音が響いたとき、レギアは振り返って、自分に振り下ろされている鉄パイプをつかんだ。
 そのまま鉄パイプを相手の手から引きはがし、彼の周囲に集まって来たユウジの仲間をなぎ払った。
 後ろからレギアを殴ろうとしていた相手をレギアは奪った鉄パイプで殴り倒す。前にいた相手が突然、レギアの顔面にパンチを入れた。
 だがレギアはひるむことなく、相手の腕をつかみ、ひねって投げ飛ばした。
 ユウジの仲間はレギアを恐れるように、退いていっている。レギアが全員を睨みつけると、仲間たちは逃げていった。
 ユウジだけが残っている。
「バカが...まだわかんねぇのか。レベルが違うんだよ」
 レギアは口の中にたまっていた血を吐き、ユウジにつかつかと歩みよった。ユウジは取り乱し、怒声をあげながらレギアに殴りかかった。レギアはかわさず、手のひらで受けて、パンチの軌道をそらした。
 彼はユウジの襟首をつかみ、ユウジの額に頭突きをした。ユウジはゆっくりとレギアの足下にくずおれた。
「これっきりにしてくれよな」
 あきれきったレギアはそういうと、シャツの襟と袖を整え、大木によしかかった。片手で汗を拭う。
 すると、校舎の方から、誰かがレギアの方へ近づいて来た。レギアが目を細めて見ると、それは転校生だった。

「悪いね。一部始終見させてもらったよ。あいつらは僕が君の力量を知るために利用したんだ」
 不思議な笑みを口元に浮かべ、転校生は言った。レギアは暑さとユウジたちへの苛立たしさが混じり、転校生の態度に腹を立てた。
「利用したって?...まずお前はなんなんだよ。名前くらい――」
「僕はリョウ」
 転校生は涼し気に言った。レギアの中に彼に対しての嫌悪感が生まれていた。
 激しい暑さの中、大木の側にいる2人の間に、涼し気な風が走り抜けていった。


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あきゅろす。
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