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ようやく戻った俺の日常










宍戸side



「亮くん、もう傷はよくなった?」
「ああ……大分な」


あれから数日が過ぎて、俺は前みたいな無茶はしなくなった。
何故かというと、未胡に心配をかけたくないからだ。
特訓中……未胡が俺の事を何度も心配してくれて、不安がらせた。
それでも俺を引き止めようとはせず、逆に元気づけられた。
その時の詫び……つうのも変な気がするけど。
とにかく、もう未胡に心配をかけたくなかった。


「ええなぁ、宍戸。未胡ちゃんに心配してもろて」
「だな。あーあ、俺も怪我とかしたら未胡に手当てしてもらおっかな〜」
「お、おいお前ら……!」
「ふふ、もちろんだよ。皆の役に立てるなら」


ったく……こいつらの冗談に付き合わなくてもいいのに。
未胡は丁寧に、にこりを微笑を浮かべながら二人に答えた。
俺は自分でも知らないうちに、そんな未胡を見て少し不機嫌になる。
それがどうしてかを考える間もなく、昼休みの時間は終わり俺たちは未胡に別れを告げて教室から出た。


「……にしても、宍戸も周りに心配かけすぎや」
「え?」
「ほんっとだぜ。未胡だけだと思うなよ?俺らだって、気にしてたんだからな」
「………」
「ほんまや。未胡ちゃんを元気づけるのも大変やったっちゅうに」
「……お前ら、」


そうか……それもそうだよな。
長太郎と特訓を始めた頃、俺は極力正レギュとも関わらないようにしてきたからな。
……何か言われるのが怖かった、という気持ちが多少あったかもしれない。
だがそれ以上に、俺の中のプライド……かな。それが邪魔をしていた。
俺も絶対、そっち側に戻ってやる。
そんな気持ちでいっぱいだったから。


「教室に居ても、全然お前元気ねーしさ」
「普段の宍戸らしないなぁって思たわ。やけど、こうやって元の宍戸に戻ると……」
「「ぶはっ!」」
「!?」


しみじみとした雰囲気だったと思うと、急に二人が噴出した。
俺は突然のことに何の反応もできなかった。
何だ、何が起こった。
俺は目を丸くして、口で言う代わりに視線で二人にそう言った。


「っはは……や、やべえ。やっぱ慣れねー…!」
「くっくっく…あかんわ、宍戸、爽やか少年になりすぎやろ……!」
「…………」


その言葉を聞いて、俺は一瞬にして呆れた。
こいつらの言いたいことが分かった。
俺のこの髪型のことだな。
未胡に髪を切ってもらった日の次の日、朝教室でこの二人に会った瞬間爆笑されたからな。
そして「誰だ」「誰だ」と大騒ぎ。
周りのクラスメイトもびっくりした顔で俺を見てたな……。


「……お前らな、いい加減慣れろよ」
「いやいやいや!無理だろ!んなスポーツ少年代表みたいなお前!」
「ほんまやで。いつも無駄にゆらゆら揺らしとった髪はどこに行ったんや!」
「っ笑いすぎだ!」


あれから数日が経ったっつうのに、飽きない奴らだ……。
俺は長い溜息をついて、二人を見た。


「はいはい。お前らの言いたいことも分かったって。だがこれは俺の決意の塊だ。笑うな」


そして不貞腐れたように言うと、二人は笑いすぎて出た涙を拭いながら、


「は、は……わ、分かってるよ、んなこと。だから俺も今回は本気なんだなーって思ったし」
「そやそや。笑て悪かったって。俺やったら絶対そんなことせえへんし、尊敬しとるよ」
「………嘘くせ」
「ほんまやって」


忍足の妙にこそばゆい言葉に寒気を感じながらも、俺たちはそのまま教室に踏み入った。
それからはそのまま普通に授業を受け、すぐに放課後になった。


「ほな部活行こか。……そや、今日からあのでっかい後輩も正レギュの部室に来るんやろ?」
「ああ、そういやそうだな」
「へえーそうだったのか。じゃあ迎えに行ってやれよ、宍戸先輩」
「は!?」


立ち上がった向日が、面白そうに言った。


「そやな。3年の正レギュの部室に2年が来るとなると心細いやろ。優しい宍戸先輩が案内せなな」
「………んなこと思ってないだろ」


忍足の奴も、なんかにやにや顔でそう言った。
相変わらず俺をネタにすることは止めないんだな。


「……わーったよ」


まぁ確かに、あいつには世話になったし……。
俺もレギュラーになるまでは正レギュの部室にはあんまり近寄れなかったしな。
そう思い、荷物を持って教室から出ると、


「お、」


扉を開けようとした未胡を見つけた。
未胡も俺たちを見た途端、足を止めて俺たちを見上げた。


「えっと…急にごめんね、皆これから部活?」
「あ、ああ……」


急に現れた未胡に俺は動揺を隠しながらそう答えた。
すると後ろに居た向日がひょこっと顔を出し、


「未胡はこんなところでどうしたんだ?」
「一緒に部活に行こうと思って…」
「あれ?でも跡部は?」
「景吾は生徒会の仕事があるから……亮くんたちと一緒に行けって」


向日が聞くと、未胡は少し控えめな態度でそう言った。
さらに、


「だめ…かな?」


小首を傾げ、上目遣いで俺たちを見る未胡。
……未胡の目の前に居るからか、その視線は俺だけに向けられているものだと勘違いしてしまう。
馬鹿、そんなこと有り得ないのに……。
そうだったらいいと、無意識に考えてしまう。


「もちろんええよ。むしろ歓迎やわ」


後ろから聞こえた忍足の言葉ではっと俺も我に戻り、同じように頷いた。
そんな妙な様子の俺に気付かれたかと思ったが、未胡はいつものように笑って、


「ありがとう」


とだけ答えた。
その綺麗な笑顔に一瞬にして見惚れてしまう俺たち3人。
後ろからいつもの調子の良い声が聞こえないのがその証拠だ。
でもその理由は、ただ未胡が綺麗な顔をしているからだけじゃない。
安心……そう、心が安らぐような、そんな優しさを持った笑みを見せるから。
周りの誰もが目を奪われてしまう。
もちろん、俺だけじゃない。


「……亮くん、どうしたの?」
「あ、いやっ……な、なんでもねえ」


やべ、また一人で変なことを……!
俺は話題を逸らそうと必死で頭の中を探る。
このまま未胡の真っ直ぐな目で見られると。
俺の心臓が破裂しそうになる。


「そ、そういえば!」
「?」
「俺ら……長太郎のところに行くんだ」
「鳳くんに…?」
「ああ、まだ2年だから……不安になるだろうから、俺が、俺たちが、迎えに……」


ああ……だめだ。完全にテンパってる。
自分でも顔から火が噴くんじゃないかってくらい頬が熱くなるのを感じながら、俺は未胡にそう言った。
そんな情けない様子に未胡が気付くんじゃないかと思ったけど、未胡はまた優しく笑って、


「ふふ、そうなんだ。じゃあ私も行く。亮くんは優しいんだね」
「えっ……」


そう言うと、俺の前から離れて少し歩く。
その様子は…俺の心の中とは違い、とても軽やかで。


「ほら、早く行かないと鳳くん先に行っちゃうよ」


そうやって俺たちへ呼びかけた。
向日と忍足は「わかった」と言って同じようについていく。
もちろん俺も。
無意識に……何かに引かれるように、ついていった。

なあ、未胡。
お前はどうして……そうも俺の心の中を乱していくんだ?
優しい笑みも。柔らかな物言いも。
全て俺にとって安心できる、あたたかいものなのに。
心の中はそれとは裏腹にどんどん熱く掻き乱される。
どうしてなんだ……。
どうして、
こうもどきどきさせられるんだ……?









ようやく戻った俺の日常
(改めて、周りの気持ちを知った。そして、俺のお前に対する気持ちは……)








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