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俺の心を包む君の言葉










No side




「あ、あの……宍戸先輩」
「っ……なんだよ、」
「やっぱり……止めましょうよ」
「あぁ?っお前、俺に協力してくれるんだろ?」
「そうですけど……」


言われた通り、鳳は夜に氷帝のコートに来た。
憧れの先輩と打ち合うことができると思っていた鳳は、少し楽しみにしていた。
だが、ここに着いて言われた言葉は、

「お前のサーブを俺に向かって打て」

というものだった。
理解しがたい言葉に首を傾げていた鳳に、宍戸は再び説明した。

「俺は、どんなボールにでも追いつける足が必要だ……。その為には、お前のその速いサーブが最適なんだよ」
「それに、お前コントロールに自信がないんだろ?俺を的だと思って打てば、そっちも強化できる」


信じられなかった。
確かにコントロールには自信がない。
……だけど、何もそこまでしたいとは思わなかった。

今はまだ10球と打ってない。
今ならまだ間に合う。
そう思っていた。


「何ぼーっとしてんだよ。早く打て」


半袖の袖をさらにまくって、身体についた泥も気にしない様子の宍戸を見る。
鳳は少し怖くなって、目を閉じてサーブを打ってしまった。


「ぅぐっ」


すると、丁度それが宍戸の顎に直撃してしまい、宍戸が顎を抑える。
鳳は思わずネットを飛び越えて宍戸に近寄る。


「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「っ……き、気にすんなって…。今の、いいコントロールだったじゃねぇか」


宍戸が顎から手を離すと、ボールが掠った後から少し血が滲んでいるのが分かった。


「……!やっぱりだめですよ!このままだと……宍戸先輩、全身血だらけになってしまいます!」
「そこまで俺は間抜けじゃねーよ」


宍戸が立ち上がる。
そして、鳳に向かって、


「ほら、時間は少ねぇんだ。早くしろ」


支えていた手を振り払い、元の位置に戻る。
鳳も少ししゅんとして、先程の位置に戻った。

今日は結局、宍戸の顎、右腕に2発、左右の太腿に1発ずつボールが直撃した。







「ぎゃはは!どうしたんだよ宍戸、その顔!」
「まるで漫画みたいやわぁ」
「うるっせーな!」


次の日、顎に大きめのガーゼを張ってきた宍戸をからかう二人。


「まさか、あのでかい後輩とやりあったんじゃねーだろうな」
「んなわけねーだろ」
「でもなぁ、宍戸は八つ当たりが好きやからなぁ」
「締めるぞコラ」


勿論、


「……亮くん、どうしたの?その怪我……」
「っああ、これか…。大したことねえよ」
「そんな風には見えないけど…」
「大丈夫だって。少し犬とじゃれてて引っかかれただけだからよ」


未胡も心配して声をかけたが、宍戸が本当のことを言うことはなかった。
それがますます、未胡の心の不安を煽ることになるというのは、宍戸も気付いているだろうが。
それでも……他人に言うような事じゃないから。

そしてまた、







「……っはぁ…」
「…っどうした長太郎!もう…息上がってんのか?」
「………」


何日か、秘密の特訓が続いたある日、


「…?長太郎、どこ見て……っ!!」


宍戸が後ろを振り向くと、そこには未胡の姿。


「っ未胡……、」


宍戸はばっと鳳を見る。
だが、鳳は「言ってない」と首を振る。


「……この練習のこと、景吾に聞いたの…」


未胡はゆっくりとコートに入ってくる。
宍戸は今まで何も言っていなかったことを悪く思い、目を逸らす。


「……また、怪我してる」


未胡が今日新しくできた傷を見て言う。
宍戸は思わずそれを隠した。


「……どうして、言ってくれなかったの?」
「……言ったら…止めると思ったから」


宍戸は少し弱い声で、そう言う。
未胡はいつでも真っ直ぐ自分を見つめてくる。
それが心地よい時もあれば、少し後ろめたくなる時もある。
未胡の目は自分の心を読んでいるようで。


「そりゃあ…亮くんが心配だもん」
「………」
「でも、」


しばらくの間。
宍戸は恐る恐る未胡の顔を見る。
すると、未胡の顔はすぐ近くにあって。


「怪我の手当てくらい……私、できるのに」


そう言いながら、新しく怪我をした左腕に包帯を巻いてくれた。


「っ未胡……?」
「私、やめて、なんて言わないよ」


宍戸は予想外の言葉に、何を言ったらいいのか分からなくなった。


「これは、亮くんの問題……私がとやかく言うことなんてできないもの」
「………未胡、」
「私、亮くんのこと応援してるし、……信じてるから」
「っ!」


宍戸は何かが心の底から込み上げてくる……そんなことを感じた。
申し訳ないと思う前に、嬉しいという気持ちが。


「……未胡、悪い……ありがとな」


ようやく出た言葉。
告げると、未胡は優しく笑ってくれた。


「無理しないでね」


その言葉があるだけで支えられる。
また頑張れる。
自分が一人じゃないと気付かせてくれたのは未胡だから。


俺は絶対、最後まで諦めない。






「じゃあ私……もう、行かなきゃ」
「ああ。……今日は、わざわざ悪かったな…」
「ううん。本当は来ていいのか分からなかったんだけど……」
「いや、すげえ心強くなった」


宍戸は久しぶりに笑った。
それを見て、未胡も安心して笑った。
そして未胡は戻っていった。


「……っし、やるか!長太郎!」
「は、はいっ!」


その後、俺は初めて長太郎のボールをキャッチすることができた。







「未胡、」
「あ……景吾、居てくれたんだ」
「お前一人だと何やらかすか分からないからな」
「まぁ、失礼ね」
「それより……言いたいことはあれだけでいいのか?」
「うん。亮くんの気持ちが亮くんのものだもん。私は何も言えない」
「…そう言うとこ、ほんとに頑固だな」
「あら、悪いかしら?」
「いや別に」


二人はもう一度コートを見る。
そこには真剣に練習に取り組む二人。
鳳も、宍戸の思いをくみ取って真剣に向き合っている。


「……無理だけは、しないで…」


頑張ってね、なんて言わないよ。
貴方はもう充分…頑張ってるから。










俺の心を包む君の言葉
(俺はどうして君を不安にさせるような態度を取ってしまったんだろう。君は信じていてくれたのに)








あきゅろす。
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