不器用なテニス、もう負けたくない 「……次は決めろよ」 「はい!」 気を取り直して、もう一度位置についた。 後ろの長太郎が気になったが、とりあえず前を向いて相手二人を睨んでいた。 「一……球……入……魂!」 最後の文字を言ったと同時にボールは打たれる。 すると、今度は真っ直ぐ相手のコートに入り、飛び跳ねる。 俺から見てても、ボールのスピードは目で追うのがぎりぎりだった。 サーブを受ける側の忍足も見送った。 「15−0!」 審判のコールが響く。 俺は思わず振り返って長太郎を見た。 「決まったじゃねぇか!」 「は、はい!」 本人も嬉しいのか、笑顔がこぼれている。 「なにやってんだよ侑士!」 「悪い悪い。思ったより早かってん」 忍足はへらへら笑ってた。 岳人は俺ら相手に1ポイント取られて起こってるみたいだ。 「その調子で、次も頼むぜ!」 「分かりました!」 1ゲームだけだから、長太郎のサーブが勝負の決め手ともなる。 ……まぁ、 「魂!」 「………」 相手は、そんなに甘い奴らでもねぇけどな。 パァンッ! 「っ!」 「怯むな!俺が取る!」 俺は走って、ボールに食らいつく。 何とか返すが、岳人の素早い動きで俺の動いた方とは逆を突かれた。 「!ちょうた…!」 後ろの長太郎は予想外のボールの動きについていけず、ポイントを取られた。 「15−15!」 「侑士ナイス!」 忍足とハイタッチをする岳人。 「……すみません、宍戸先輩」 「いいよ、別に。次取るぞ」 「はい」 また自分の位置につき直し、長太郎がボールを持って構える。 「………」 遠くから跡部と未胡がこっちを見てる。 跡部は何だかおっかねぇ顔で。 未胡は心配してる顔で。 緊迫した雰囲気に、ボールが放たれる。 またボールは相手コートを跳ねた。 それをまた忍足が打ち返す。 俺はさっきのお返しと言わんばかりに忍足の反対を打った。 だが、 「甘いでぇ、宍戸」 「!!」 忍足はキュッと方向転換をし、ボールに追いつく。 後ろに届いたそのボールを長太郎が返すと、今度は岳人がボレーを決める。 「コンビネーションってのができてへんで?」 俺が岳人のボールをロブで返すと、忍足が飛び上がったのが見えた。 やべえ。 一瞬心の中で思ったが、身体が動かない。 これがダブルス。 まだ俺は一人でテニスやってる感じがしてしょうがねえ。 「………っ」 胸糞悪ぃ。 思うようにテニスができない。 ………。 「15−30!」 結局忍足はスマッシュを打ち、ボールは俺と長太郎の間に流れた。 「………」 「し、宍戸先輩……」 「……何でもねぇ。次だ」 俺はまともに長太郎の顔が見れなかった。 交わす会話も少なくなりながら、双方位置に戻る。 「……侑士、」 「ああ。これも、あいつらの成長のためやな」 長太郎がボールを打つ。 フォルト。 もう一度打つ。 ダブルフォルト。 「15−40!」 「す、すみません!」 「気にすんな。後は俺が取り戻すから」 「………」 そう言うと、俺は長太郎に背を向け前に戻る。 「宍戸〜」 「あんだよ岳人」 「もうマッチポイントだぜ?手応えねーの」 「ほっとけ。さっさとネットから離れろ」 「まぁ、ダブルス初心者だから、期待はしてねーけどな」 手をひらひらと振って岳人はネットから離れた。 確かに、今はどう言われても仕方ねえ。 協調性の欠片もねぇ俺が、ダブルスなんて自分でもおかしく思える。 だが、今はやってやる。 負けるのが、いつの間にか怖くなってきた。 「………」 何がなんでも次はちゃんとポイントを取ってやる。 俺が、動く。 長太郎は緊張してか、ダブルフォルトをするまでになっちまった。 俺が、何とかしねえと。 パァン――! 今度はちゃんとコートに入った。 忍足が返す。 「おぉ…!」 俺はそのリターンを力いっぱい返す。 だが、その力技も忍足はいとも簡単に返して見せる。 そして、返ってきたボールは本来、長太郎の方に回るはずだった。 「っ……!」 俺は、勝利への執着心だけでボールを追いかけた。 そして返す。 俺は長太郎と同じ場所に並んでいた。 「せやから、あかんって」 忍足の言葉が放たれた後、岳人が飛び跳ねた。 来る。 岳人の得意の……ムーンサルト。 「へへっこれで終わりだぜ!」 「「!!」」 バン!と気持ちよくラケットにボールが当たる音が聞こえた。 こっちのコートでは、 俺と長太郎、両方がそのボールを返そうと構えていた。 ボールは俺たちの間を通ろうとする。 こうなると、後にどうなるかは分かる。 「っ!」 「あっ!」 俺たちはぶつかりそうになり、反射的に腕を振るのをやめた。 そして―――ボールは後ろの方で、空しい音を立てて跳ねた。 静かに、1ゲーム終了を告げた。 不器用なテニス、もう負けたくない (それなのに、身体が動かない。俺はまた、負けた……) ←→ |