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新しい自分を魅せるチャンス










授業中も昼飯時も、テニスについて考えてたら時間なんてあっという間だ。
いつの間にか日が傾き始めて、放課後。
約束通り、長太郎と会ってサーブを見せてもらうことにした。


「ほらよ、ここはネットがねーから思い切り打ってみろよ」
「はい」


ボールを投げ、長太郎がそれをキャッチする。
そして意識を集中させ、ゆっくりと前を見据えた。


「一…球…入…魂!」


何やら呟きながらラケットを振り被ってボールを放ったと思うと、まるで一瞬にして壁にぶつかったように音が聞こえ、後は地面をポンポンと跳ねていた。
俺は予想以上のサーブに一瞬言葉を失う。


「……あの、どうですか?」
「いや…びっくりしたぜ!お前、性格に合わず凄いの持ってるじゃねえか!」
「はぁ…その性格って……」


鳳は困ったように、でも褒められたことの嬉しさに笑みを作る。
宍戸もはにかんだような笑顔を見せた。


「ってか、その『一球入魂』ってのは何なんだ?」
「あぁ、意気込みみたいなものですよ。一球一球に全身全霊を込めて打ってますから」


にこりと笑う長太郎を見て、サーブへの想いがよく分かった。
ここが俺とこいつの違うところなのかもしれないな。


「これならまずサービスゲームは心配ねえな。あとはカウンターか……」
「カウンターなら宍戸先輩のがあるじゃないですか」
「いや、だめだ……。いくら俺のライジングでも……橘には通用しなかった」


眉を寄せ、ぐっと拳を握りしめる。
それを長太郎もまた真剣な面持ちで見つめてきた。


「だから、俺はもっと、ライジングを極める。……でも、それをどうしたら極められるかが問題なんだよなぁー」


溜息を吐きながら地面に座る。
長太郎は何も言わなかったが、考えてくれているのが判った。


「……では、宍戸先輩の理想のカウンターってどんなのですか?」
「……理想?」
「はい。とりあえずは目標を持って練習した方が、前進できると思いますよ」


こいつ……なかなか言うな。
あれだ、跡部の言い方が優しいバージョンみたいな感じだ。


「そうか、目標か……まぁ、完璧なカウンターをするんなら、向かってくるボールに一瞬で追いつくような……どこでも、どんなボールでも返せるような感じだな」


上手く言葉には言えないが、俺は完璧を目指す。
どんなボールでも返してやんよ!


「それはまた……宍戸先輩らしいですね」
「うっせえ。そう言うお前もサーブを完璧にするんだろ?」
「あはは、まぁ」


とりあえず俺達の目標は決まった。
あとはそれに向かって練習するだけだが……今の自分たちの実力ってのがよく分からねえ。
どうしようかとまた振り出しに戻ったとき、


「あ……亮くん!鳳くん!」


遠くから聞きなれた声が。
未胡が手を振りながら走ってきた。
俺達は立ち上がって未胡の姿を待った。


「どうしたんだよ、そんなに慌てて」
「何かあったんですか?」
「あ…ううん、そういうわけじゃないけど……侑士くんと、岳人くんがね、」


未胡は少し息を整えながら言葉を口にした。


「コートでね、待ってるって…。試合って言えば分かるって……」
「……!って試合!?もしかして、あいつマジだったのかよ!」


俺はいち早く悟った。
あれだ、あの話だ。

「なんやったら今度、試合したろか?俺らのコンビネーションでもお手本にし」

今度≠カゃなかったのかよ!
ってか跡部も許したのかよ!
そんなに俺を見せものにしたいのかあいつは!


「急みたいだけど、まずはダブルスを掴む為にやってみたらどうだって、景吾が言ってたよ」
「ったく……ほんとに計画性がないっていうか……」
「まぁ、いいじゃないですか。忍足先輩たちに胸をお借りしましょうよ」
「……借りは作りたくねぇんだけどな…」
「もし借りだとしても、返せばいいんですよ」


長太郎の言葉で、俺ははっと顔を上げる。
そうだよな……例え負けたとしても、それをいつか返せばいいんだ!
俺はもう昔の俺じゃない!


「よし…わかった。行くぜ、未胡、長太郎!」
「うん!」
「はい!」


俺が走るのを後からついてくる二人。
忍足たちの待つコートへと潔く向かった。







「おっ来たなー宍戸!」
「そっちが鳳やな。軽くよろしゅー」
「あ、はい」
「っつーか、マジでやるとは思わなかったぜ」


コートに足を進めると、既に二人は万全の状態みたいだ。
勿論、それは俺も長太郎も同じだけどな。


「跡部がすんなりOKしてくれてよー!珍しいよな!」
「って言うても、1ゲームだけやけど」
「別にいいぜ。その中で全力を尽くしてやるからな!」


そうしてサーブ権は俺達に譲られ、長太郎が構えた。
そして、ゲームの始まる声が聞こえる。
フェンスの中のベンチでは、跡部と未胡がこっちを見てる。
たとえ1ゲームでも、昔とは違う俺の初めてのゲームだ。


「一……球……」


長太郎が慎重に手を振り上げる。
俺は少し緊張しながらも、サーブが放たれるのを待った。


「入…魂…!」


パシッとラケットに当たる音が聞こえたと思うと、
パシャンッ……
少し情けない、ネットにかかる音が一拍遅れて聞こえた。


「フォルト!」


俺はぽかんとボールを見つめる。
振り向くと、長太郎が、あっ、という声を漏らした。


「……長太郎!一発目からネットとか何やってんだよ!」
「わーすみません宍戸先輩!」


俺はくわっと口を開けラケットを振り回す。
それから逃げるように長太郎は後ろに下がった。


「……なんや、岳人…なんかあの子ら心配やわー」


忍足は微笑ましげな表情を作りながらも呟く。


「あはは!一発目からミスるとか!あいつら中々いいんじゃねえ?」
「仲の良さはええと思うけどなー」


鳳に怒りを口にする宍戸が本気で怒っている様子がないのを簡単に知り、忍足と向日はそれぞれ口にした。
改めてゲームが開始するまであと少し。










新しい自分を魅せるチャンス
(……まぁ、気を取り直して……次は頼むぜ!)




 



あきゅろす。
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