仲間、未来を想像させるもの 俺達二人は部室から出ると、すぐ横に未胡が居た。 少し心配そうな表情をしていた未胡は、俺達が出てくると焦りを見せた。 「あ、ご、ごめんなさいっ。えっと……亮くんが、心配で……」 盗み聞いていたのか肩に力を入れて謝る未胡。 こんなに心配してくれてたのに、俺は……今はまだ、未胡に何のお礼もできないんだな。 「別にいいぜ。聞かれちゃまずい話なんてしてねぇし……」 「そ、そっか……。隣の子は、鳳くんだよね…?」 「はい、2年の鳳長太郎です」 優しく微笑む鳳を見て、未胡も安心したのか表情を和らげる。 「私は3年の日向未胡。これから二人で頑張ってね」 「はい」 「勿論だ」 二人はもうお互いをダブルスのペアだと意識し始めたのか、同じような表情を見せる。 未胡は心の底から安堵した。 宍戸のペアは、落ち着いた子だった。 これだったら、宍戸が無理をしないように見ていてくれる……。 単純にそう思った。 宍戸の頑固な血が目覚めるまでは。 「……で、お前はどうしてだよ」 「?…どうして、って……?」 「だから、何で正レギュラーになれたんだよ。なんか必殺技とかあんのか?」 「あぁ…俺は、サーブが使えるからって、監督に言われて正レギュラーになれました」 未胡と別れた俺達は、作戦を練るような形で向き合い話し合っていた。 朝練習が終わるまではまだ時間がある。 その間に相手の事を知っておこうと思ってだ。 「サーブか……確かに、サーブ一本で流れを掴むことができる…。それに、お前は図体もでかいし、武器にもなるな」 「はは……でも俺、ノーコンなんですよ…。ネットになってしまう時もありますよ」 「おいおい、サーブは入らねえと意味がなじゃねえか」 「す、すみません……」 その弱さは自分でも分かってるみたいだな、長太郎は。 そこは俺も見習わないといけない…。 自分の非を認める強い心を。 俺は謝るな、と一言言う。 「そっか、サーブか……。てことは、サーブ&ボレーヤー。俺はカウンターバンチャーだから……相性は良いな」 「そうですね。宍戸さんのライジングは凄いと思いますよ」 「…だけど、ライジングももっと高めないとだめだな……」 んー、と頭を捻る。 どうすれば高めることができるんだ? がむしゃらに練習するしか知らない自分に呆れた。 「そうだ、とりあえずお前のサーブ見て、コンビネーション?みたいなのを考えるか」 「はい。でも、もうすぐ朝練習も終りですから放課後になりますね」 「あー……まぁいいか。んじゃまた放課後な」 「はい」 俺達は立ち上がり、玄関へと向かった。 その姿をちら、と見た別の二人は、 「……あれなら心配ねえだろ」 「うん……ありがと、景吾。頼みを聞いてくれて」 「…別に未胡の為じゃない。俺も今のあいつを失くすのは惜しいと思っただけだ」 「ふふ……景吾は優しいね」 「……優しいなんて柄じゃねえよ」 跡部はぽつりと言うと、二人の姿の消えた玄関へと向かった。 未胡はその姿をしばらく見送る。 「……自ら、悪役を買って出て…突き放すようにして優しく見守る、そっちの方が景吾らしいね」 幼馴染の幼い頃との変わりようを実感して、後をついていき、同じように教室へと向かった。 「おい宍戸ー!」 「……は?」 教室に入った俺に一番に声をかけたのは岳人。 飛び跳ねながら俺を待ち受けている。 その横には忍足も面白そうに笑っていた。 ……なんか行きたくねえ。 「…何だよ朝からうるせーな」 「お前さ、ダブルスやることになったんだって?」 「宍戸がダブルスか。ペアのお守とかできるんか?」 「……なんで知ってんだよ」 鞄を机に置き、眉を寄せる。 ダブルスの二人にダブルスについて話させたら鬱陶しくなるのは判っていた。 「未胡から聞いたんだぜ。応援してあげて、ってなー」 「嬢ちゃんも、ほんま心配性なんやな。特に宍戸には」 「う、うるせえな……未胡は、本当に心配してるだけなんだよ…」 きっと、自分じゃなく岳人や忍足にもそう接するだろう。 困っている人は放っておけないような正義感を持っている。 そう、俺は考えていた。 例え無理矢理でも。 でも忍足は俺の気持ちを分かっているにくすりと笑った。 「はいはい。で、まぁ本題に戻るんやけど、ダブルスやることになったんやろ?」 「……そうだけど」 「なんやったら今度、試合したろか?俺らのコンビネーションでもお手本にし」 「安心しろ。手加減はしてやるからな!」 「それは俺に対する嫌味と自慢か?あぁ?」 かなり腹立ってきた。 まぁ…確かに今の俺達じゃ、長年コンビ組んでる二人より劣っているだろうが。 この二人を負かす勢いじゃないと正レギュラーになれないことも……そうなのかもしれない。 「ダブルスを知るためにも試合は必要やで?跡部に頼んどいたるわ」 「相手は2年なんだろ?でも、監督が正レギュラーにしたんだからそこらの奴らとは違うんだろうな」 「……まぁな」 普通の2年生なら、俺に向かって激ダサ≠ネんて言えない。 負けた俺を少し見下すか、先輩だからってびびるか。 後輩なんてのはそんなもんだと思っていた。 だが確かにあいつは違う。 俺に真剣に言葉をぶつけてきて、俺を奮い立たせた。 会ってすぐ、借りを作られた。 本当、助けてもらってばっかだな。 未胡や、あの2年、……それに跡部も。 あの歌の通り。 未胡が歌ってくれたあの歌の通り……俺は一人じゃないと、今日改めて実感した。 仲間、未来を想像させるもの (忍足や岳人も、俺が負けた試合について触れなかった。これからの事について言ってくれた) ←→ |