新しい出逢い、新しい刺激 「………」 次の日、俺は考えながら学校へと向かった。 夜はあまり眠れず、気持ちの良い寝起きとは言えなかった。 あの後、 「ダブルス、だって……?」 「ああ。丁度今、関東大会に向けての正レギュラーについて監督と話している」 「………!」 「そこに、2年が一人居るんだよ」 「……2年、?」 腐るほど居るテニス部の中、3年生からじゃなく2年生から出るのは珍しい。 ……まぁ、樺地の場合は別だったけどな。 「ああ。シングルスはもうメンバー決まってるようなもんだろう?」 シングルス……。 その言葉に、俺は眉が寄る。 俺が抜けた後のメンバーを思い出す。 シングルスができるのは……跡部、ジロー、樺地、滝……忍足もできるだろうが、あいつは岳人とダブルスだしな。 「ダブルスが弱いのを監督も考えていたそうだ。そこで、2・3年から選び様子を見ることにしたんだ」 「………」 「本当なら滝に2年の面倒を任せるところだが……お前にチャンスをやろうと思ってな」 「……余計な世話焼きやがって」 呟くが、俺は迷っていた。 チャンス。 俺の努力を……監督に見せつける、チャンス。 ふと視線を上げると、未胡と目が合った。 未胡は心配そうな顔をしていたが、チャンスと聞いた時俺をじっと見ていた。 「まぁ、今すぐ答えは出さなくていい。明日の朝練習、その2年を紹介するからな」 それだけ言って、跡部は踵を返して俺の前から立ち去った。 未胡は残って、俺の前で俯いていた。 「……亮くん、私、どんな形でも亮くんがもう一度テニスをする姿が見たい」 「………」 「その2年生の子に、会ってね?」 黙ったままの俺に後押しするように未胡は言って、俺の横を通り過ぎた。 俺はしばらくその場を立ちつくした。 「……まぁ、会うだけならな」 とりあえず。 しかし、跡部は協調性のない俺にダブルスが出来ると思っているのだろうか。 しかも経験もない。 ……忍足や岳人に教われって言うんなら嫌だぜ。 「……さて、遅いって言われる前に部室行くか」 校門をくぐり、俺は部室へと直行した。 目の前の部室を少し眺め、ドアノブを回して入った。 「………」 「来たか。宍戸」 目の前から降ってきた言葉。 それは跡部のもので、隣には跡部より背のでかい奴が居た。 「こいつが昨日言ってた2年だ」 「えっと……鳳長太郎と言います」 跡部に促されてお辞儀をしながら2年は言った。 なんか礼儀正しい奴だな。 外見からすると、おっとりしたような……。 「……?お前、あの時の奴か?」 都大会の前、部室から出た俺とぶつかった奴。 銀色の髪といい、あの時の奴と似ている。 「あ、はい。そうですよ、宍戸先輩」 覚えていてくれたんですね、というような顔で微笑む2年。 覚えていたというか、思い出してしまっただけなんだけどな。 「なんだ、面識はあるのか。なら平気だな。鳳、この馬鹿を頼む」 「は、はい」 「おい跡部、なんで俺が頼まれなきゃいけねーんだよ」 「アーン?いくらお前が先輩だろうが今のお前は準レギュ以下だ。それに、お前が無茶しないようにとこいつを呼んだんだからな」 あまりにもすぱっと言う跡部に、俺は何も返せなかった。 跡部は俺が黙ったのを見ると、俺の横を過ぎて部室から出て行った。 静まる部室内。 「………あ、あの、宍戸先輩……」 「別に気なんか遣わなくていいぜ。跡部の言う通り、俺は……」 言いながら、拳を握った。 「今の俺は、準レギュ以下、なんだからな……」 レギュラー落ちした奴を監督は二度と使わない。 俺が落ちるわけないと思っていた頃は、変な方針だと鼻で笑っていた。 だが、自分がとなると、こうも厳しいものはない。 俺は今、監督の方針に逆らおうとしている。 「……宍戸先輩、」 「どうせ、こんな事をしても無駄だとか思ってんだろ?俺が落ちて、レギュラーになれたんだろ?だったらお前は俺を……」 「………。今の宍戸先輩は、激ダサ、ですよ」 「…っ?」 落ちていた視線を上げると、さっきまでおろおろしていた奴とは違う表情を見せていた。 真剣に俺を見て、強い意志を俺に向けて。 「俺は、こんな事をしても無駄だなんて思ってないですし、宍戸先輩は今でも俺達が憧れていた宍戸先輩です」 「………っ」 「前の、自信に満ち溢れていた宍戸先輩のプレーが好きでした。だから、今回も俺でよければと思って跡部部長のこの誘いを受けたんです」 「……お前、」 「宍戸先輩のダブルスを務めることで、もう一度宍戸先輩のプレーが見られるなら、それで宍戸先輩に自信がつくなら、俺は何でも協力します」 「どんな形でも亮くんがもう一度テニスをする姿が見たい」 ふと、未胡の言葉を思い出した。 そうだ、俺はまだ終わっちゃいない。 前にも考えたばかりだろうが! 「……そうだな。確かに今の俺は激ダサだったな」 「宍戸先輩……」 「2年にそう言われたからには、俺も負けてらんねぇぜ。さっきの言葉忘れんなよ!」 「はい!」 「俺は何でも協力します」 その言葉に、俺は後に甘えることになる。 たとえそれで2年に迷惑をかけようとも、それでも俺は上へと登ってやる……! 「……お前、鳳長太郎っつったっけ?」 「はい、そうですけど……」 「俺は、お前でもびっくりするくらい早く上に登ってやる。お前もちゃんとついてこいよ、長太郎!」 「……あ…はい!」 新しい出逢い、新しい刺激 (やるからには、俺は全力で上に向かってやる!) ←→ |