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歌が過去を呼び覚ます










「ふぁ〜……俺、もっかい寝るね」
「……おう」


また寝るのかよ。
っつか、ほんとよく寝れるな……。
少しだけ羨ましい。


「あ、そだ」


横になったジローが顔だけを俺に向けた。
寝たんじゃなかったのかよ。


「あのさ、あの歌うたってよ」
「……は?」


ジローの言葉に俺は思い切り顔を歪める。
あの歌……と言ったら、あれしかない。


「っつか、なんで俺が…」
「だって俺あの歌超好きだもん〜。それに宍戸は歌上手だし」
「……俺はあんま人前で歌うの好きじゃねーんだけど」


カラオケとかならまだ別だけどよ。
こんな静かなとこで、しかも子守歌代わりに……。


「A〜いいじゃん!俺は聞きたいの!歌ってくれたら放課後練習行くからさ〜」
「………」


いや、放課後行くっつー話は授業を一緒にサボるっていう話で解決しただろうが。


「ね、お願い〜!今日だけ!」


俺は拒否を続けたがジローが手を合わせて頼むから俺は受け入れざるを得なかった。
はぁ……。


「……歌い終わったら俺は授業出るからな」
「いいよー。じゃあ、よろしく!」


ジローはまた横になった。
目を閉じるのを確認して、俺はフェンスにもたれ空を見上げながらメロディーを思い出す。
そういえば、この曲は小さい頃に誰かに教えてもらった曲だったな。




「僕らは出逢った
 小さな公園の 小さな砂場で
 君は初めて会う僕にも
 小さい笑顔を向けてくれた

 その日の事を 僕は忘れない
 だって 素敵な思い出だから
 だって あの青い空が忘れられないから
 僕らだけの素敵な思い出
 
 そう、僕はずっと憶えてる
 この青い空が僕らの真上にある限り
 僕らの出逢いは消えないから……」




この曲にぴったりの青い空を見上げてた。
歌っていると、何故か無心になれる。
俺はこの歌は好きだ。
でも俺が知ってるのはここまで。
この後に続きがあるのか、これで全部なのかは判らない。


「………ねぇ、」
「ん…?なんだジロー、寝てねーのかよ」
「だって〜、宍戸に似合わないバラードだもん」
「う、うっせーよ!俺っ、もう戻るかんな!」


立ち上がる俺をジローは慌てて止めた。
俺は寝転がってるジローを引きずるわけにもいかず立ち止まった。


「まぁ待ってよ、」


俺が怒ってるのに気付きジローは困ったような笑顔を浮かべた。
俺は無言でその場で座る。


「その歌を聴くとね、ある事を思い出すんだ」
「……ある事?」


急に語りだすジロー。
俺は不審に思いながらも聞き返す。


「…俺達がちっちゃい頃さ、どっかの公園で一人の女の子に会ったの憶えてる?」
「は………?」


俺は考える。
そんなことあったっけ。
だが、よくジローと公園で遊んだ記憶はある。
えーと……。


「………あ、」
「思い出した?」
「そういえば、居たな……」


顔を思い出せなければ声も判らない。
だが、確かに出逢ったのは覚えてる。
何故出逢ったのかも判らないけど、よく笑顔で俺達と遊んでた……。


「でしょ?その歌にそっくりじゃない?」


そっくりかどうかは知らねえけど。


「…確かに……歌詞的には似てるよな」


きっと、その公園で会ったんだろう。
……何でか忘れちまってた。
だが、一度思い出すと結構な事を思い出せる。
その公園で会ってから、暇な時はその公園に行って……。
そしたら必ず、その子が居る。
そして決まった時間に、誰か…大人が呼びに来てお別れだった。
懐かしいな……。
そんな子も、確かある時を境に全く公園に現れなくなったけどな。


「……そいつ、今どうしてっかなぁ…」


ふと、言葉に出た。
そしたら、ジローはにこっと笑って、


「そうだね。また会いたいなー……」


少し眠気の混ざった声でそう呟いた。
ジローの方に目を向けると、目がゆらゆら動いててすぐにでも寝そうだった。


「……そうだな、」


今はもう思い出せないその子を考えてみる。
って、今思っても会えない事は承知だが。


「……お、今度こそ寝たみてーだな」


ジローは静かな寝息を立てていた。
俺はすっと立ち上がり、眠りの邪魔にならないように屋上を後にした。







その後。
宍戸と入れ替わるようにして誰か屋上に来たのを芥川は感じた。


「……こんにちは、」


入ってきた人物が芥川にそう呼びかける。
芥川は閉じていた目をゆっくり開けて、


「………久しぶり。やっぱり、君だったんだ」
「ふふ、そうだよ。懐かしい……」
「俺も、すっごい懐かしいC〜……」


二人はそう言葉を交わし、お互いに微笑みかけた。










歌が過去を呼び覚ます
(心が安らいで、自然と笑顔になれるバラード)








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