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思い返せば幸福










「……ここ」



愛璃を送っている途中。

愛璃はあるマンションで止まった。



「…お前さん、マンションに住んどるんか?」

「うん…」



愛璃には家族が……いないんじゃったな。

こういう事を聞くのはいかん事なのかもしれんが、



「生活費とかは…どうしとるんじゃ?」

「……一ヵ月に一度、私の口座に振り込まれてる。……食費以外あまり使ってないけど」



愛璃はマンションの二階で止まった。

そして、ある部屋の目の前に立つ。


ここが部屋なんだろう。



「……今日は、ありがと」

「礼なんかいいぜよ」

「そう……。……それじゃ、」



素っ気ないが、俺は別に気にしない。

これが愛璃だからな。



「ああ、また明日」

「………」



愛璃は無言で入っていった。

パタン、とドアの閉まる音が何故か空しく聞こえた。



「………」



俺も無言でその場からすぐに去った。

また明日

その言葉に愛璃は答えなかった。


ただ少し、心細そうに俯いただけで……。



明日、本当に愛璃に会えるのか心配なくらいだったが考えすぎだと思った。





























翌日。

俺は学校に到着してすぐに屋上へ向おうとした。


すると、



「仁王くん、」



俺の部活での相方が俺に話しかけてきた。



「何じゃ、柳生」

「また屋上へ行くのですか?授業にはちゃんと出てください」



……またこれじゃ。

柳生はよくこういう事を言う。

心配してくれるのは嬉しいが、それに応えることはできない。


それは、柳生も知っていると思うが。


「別に授業に興味なか」

「義務教育です」



キリッと眼鏡を掛け直して言う。

しつこいからのう……柳生は。



「……プリ。俺は頭いーから平気ぜよ」

「ですが……」


「それに、今は他に興味のあるものができた。じゃから、余計に授業なんか出ん」



少し言い放つように言った。

すると、柳生は何も言わなくなったから俺はそのまま柳生の横を通り過ぎる。


そして、愛璃が居るだろう屋上へと足を速めた。



「……仁王くんが、あそこまで言うとは……。その興味のあるもの≠ェ気になります」



少し呆れたような、困ったような笑いを浮かべた。



























「愛璃、」



屋上に着いて早々、愛璃の名前を呼んだ。

だが誰もいなければ声もしない。

どこかに居るはずなんだが。



「そこか?」



昨日も居た場所。

俺は静かに壁の隅に歩み入った。



「………」



案の定、愛璃はそこに居た。

体操座りをしているかと思えば、中腰の俺を顔だけ向けて見つめた。



「おはようさん。お前さんはここが好いとるんじゃな」

「……何で、貴方が、」


「何でって、愛璃に会いに」

「……授業は…?」


「勉強なんかに興味なか。……それより、もっと日の当たる所へ行った方がいいぜよ」



愛璃の居る場所には日は当たらない。

愛璃の白い肌を見たら、無理矢理にでも太陽の光を浴びせたくなる。



「………」



躊躇っている愛璃の腕を掴み、その場所から離れた場所に堂々と座る。

俺もあんまり日向は好きじゃないが、今日は心地良いあたたかさだった。



「な、こっちの方があったかいじゃろ」

「………うん」



愛璃は微妙に首を縦に動かす。



「……俺の知り合いに聞いた話じゃが…。お前さん、授業に出ないんだってな」

「……うん。あんなとこ、行っても無駄」



少しむすっとしたような表情でさらりと言った。



「どうしてじゃ?」



俺の問いに、愛璃は少し間を置いて、



「……学校は、一番知りたいことを教えてくれないから」



俺の目を見ずに、淡々と言った。


……確かにな。

学校では、先生からでは……お前さんの問題は解決できない。



「……それだけでもないんだけどね」



……あれか。

ブン太の言ってた……。



「……クラスに、居るんじゃろ?あの時の……」

「…そう。あの人たちは、私の事を見たくないって言うから、行かないことにしたの」



愛璃の存在を拒否して

そのくせにああやって愛璃の事を傷つけているんじゃな。



「……私の居場所なんて、他にない。屋上だって、何時誰が来るか判らない。……昨日みたいに」



俺が、昼から来たことじゃな…。

しかも女連れで。



「……でも、それでよかったのかも」

「………」


「昨日は、雅治に出逢うことができたから」



俺の目を見つめ、そんな照れてしまうようなセリフを顔色変えずに言う。



「……貴方は、私と…似てるようで、違う」

「………」

「貴方は、愛を…信じない」


「……そんなこと、お前さんに言ったっけな」



あえて肯定や否定をしない。

すると愛璃は首を振り、



「あの女の人が帰った後、貴方の仕草や雰囲気で……感じた」



感じた、か。

そういう面では鋭いな。

合っとるよ。

ドンピシャじゃ。


だがな、俺もお前さんと同じように……昨日、お前さんに会えた事を良かったと思ってる。



「そーかそーか。愛璃は俺の事よう見とるみたいじゃな」



そんな心内は明かさず、微笑を浮かべて愛璃の頭を撫でる。


そうすると愛璃は俯き、されるがままになっている。

嫌がらないのなら、多分平気なんだろう。




正反対のようで、実は全く同じ。

俺と愛璃は、そんな関係なのかもしれんのう。


今はまだ、本当の気持ちを明かさず様子見。


お互いの感情を刺激する要素が相手にはある。



何時か、それが癒しとなればいい。


























思い返せば幸福
(昨日の事を、誰かが運命と言っても俺は否定しんよ)












あきゅろす。
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