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噂と確信










それから放課後になった。

授業はサボっても部活は中々サボれないから嫌やのう。



「愛璃、俺は部活行ってくる。お前さんも来るか?」

「………」



愛璃は小さく首を横に振った。



「人混み……嫌いだから」

「……そっ、か…」



確かにテニスコートの周りは人で埋め尽くされとるしな。

その中に無理矢理愛璃を引っ張ってくるのは一番だめなことじゃな。



「愛璃は部活入っとらんのか?」

「うん……。私、帰るね」



まるで、これ以上話すのを拒むかのように、愛璃は屋上から出て行った。

……逃げるように。



「………」



俺は追うわけにもいかず、しばらくしてから屋上を降りることにした。

























「……なぁ、ブン太」

「ん?何だ、仁王」



部室に入り、ユニフォームに着替えながら隣に居たブン太に話しかけた。



「……お前さん、如月愛璃って奴、知っとるか?」

「え?如月?ああ、知ってるぜ。同じクラスだしな」

「…同じクラスやったんか」

「そーだぜ。でも、どうしたんだ?如月の話するなんて」



余程愛璃の話をするのが珍しいのか、俺の顔を覗き込んで真相を探ろうとする。



「え?先輩達、如月愛璃さんの話してるんスか?」



ここで話に飛び込んできたのは赤也。

後ろから割り込んできた。



「なんだ赤也、知ってんのかよ」

「そりゃまあ、噂で聞いただけッスけど」

「噂……?」



そこでハテナマークが浮かんだのは俺だけだった。



「あれ?仁王先輩知らなかったんスか?」

「……知らんな。どんな噂なんじゃ?」


「えーと、冷酷無比ですれ違っただけでも氷のような目つきで睨まれるって」



……何じゃそりゃ。



「へー、二年の間じゃそんな噂流れてんのか」

「え?三年は違うんスか?」


「ああ。俺らのクラスでは、あいつ…何時も独りだし、誰とも話をしたとこなんて見たことねえもんな。っつか、声だって聞いたことねーし」

「声?授業とかはどーなんスか?」

「あーだめだめ。あいつ、授業なんか出ねーもん。っつーか、いっつも呼び出されてるかんな」


「呼び出し……?」



その言葉に、俺はつい口に出して心配してしまった。



「あいつ……女子からすっげえ嫌われてるからな」


「………っ、」



そして、次に俺は走り出していた。

勢いよく飛び出したから他の奴らから注目を浴びてしまったがそれどころじゃない。


愛璃は、放課後になった途端そわそわし始めた。

最後……早く俺との会話を終わらせ、どこかに急いで向かうかのように、屋上を出て行った。


その後ろ姿が、やけに印象に残って。

あんな小さな背中で……一人で一体何をしようとしているのか。



「っ…どこじゃ……!」



屋上ではない。

中庭でもなかった。


だとしたら……、



「あっちか……!」



俺は校舎の裏に回った。




























「っ………」



愛璃は校舎の壁に突き飛ばされた。



「あんたさぁ、いつまで学校にくるの?」

「もう来ても意味なーいじゃん」

「そーそー。目障りだからさ、そろそろいなくなってくんない?」



周りには複数の女。

……突き飛ばされた衝撃で、愛璃は壁を伝って地面に座り込む。



「っ……!」



そして、キッと周りを睨みつけた。



「…は?何よその目。今の状況分かってんの?」

「きっと、馬鹿だからわかんないんじゃない?」

「言えてるー」



そしてきゃははと高く笑う。

その様子を、愛璃は見上げながら唇を強く噛んでいた。



「ほら、早くどっか行ってよ」

「ぅぐっ!」



リーダー格の女が、愛璃の髪を引っ張り上げながら顔を覗き込む。

痛みに少々顔を歪めたが、さっきと同じ眼で女を睨んだ。



「あ……な…たたちが………」

「はぁ?」



愛璃は恨みを込めるように喉の奥から声を出す。



「あなた達が……っ、私…を呼び出してるんでしょ……っ?」

「それが何よ」


「……れば、いい…」

「は?聞こえないっつーの」


「呼ばなければ…いい……のに」



そんなに私を見たくなければ、わざわざ呼び出しなんかかけなければいい。

それは自分から私の姿を見るように仕向けてるということ。

だから、授業だって……出ない。

人気の少ない屋上に、何時もいるのに。


……何故、それに気づかないのだろう。



「はぁっ?私たちはっ、あんたが学校に来てることが許せないの!」

「消えたとでも聞かされないと寒気がすんのよっ!」



そして、髪を掴んでいる女が愛璃の頬を叩こうと手を振り上げた時、



「何しとんじゃお前さんら!!」


「っ!!…に、仁王くん……」

「や、やばいよ…。逃げよっ」



女は気が進まなかったが愛璃の髪を離し別の方向へ逃げて行った。



「っ……」

「愛璃……」



仁王は肩で息をしている愛璃にゆっくり近づく。



「……あれ…?まさはる……部活は…?」

「そんなんどうでもよか。お前さん、怪我は…?」



愛璃の背中を支えると、愛璃は自分で立とうと地に手をつける。



「無理は止めんしゃい」

「…大丈夫だよ。何も…されてないから」



仁王は愛璃の全身を見てみた。

確かに、砂埃はあるが打撲や切り傷のような傷はない。


内心安心した。



「……ねぇ、雅治……。見た?」

「……何をじゃ」

「さっきの…人たち」



愛璃はチラ、とさっきの女が走り去った方向を見た。



「……あの人たち…可哀相なんだ」

「………」


「きっと……あたたかい心が、無くなっちゃったんだよ」

「……愛璃、」


「し…嫉妬…嫌悪…憎しみ……いろんなものが混ざって、ああなっちゃったの……」

「……お前さん、何か知っとるんか?」



普通にしているだけではああも憎まれない。

何か理由があるはずだと仁王は考えていた。



「……私の髪を掴んだ子…ね。私が、小さい頃雀を見せてあげた子なの……」

「…!」


「周りの子にも、その時の同級生が結構いるの。腐れ縁……っていうのかな……」

「愛璃……」


「だからね、大丈夫だよ…。心配、いらない……」



今まで仁王が支えていたが、愛璃は大丈夫と自分で立ちあがった。



「……家まで、送ってってやるぜよ」

「平気……。雅治は、部活があるんでしょ……?」

「部活よりお前さんの方が心配じゃ。…ほら、掴まって」

「………う、ん」



愛璃は仁王の顔を直視せず、地面に目を向けた。

それはきっと恥ずかしがっているのだろうと仁王は思った。


そしてその日は、仁王は部活に行かず愛璃を家まで送っていった。





























噂と確信
(まさか、愛璃がこんな状況に遭っているなんて……)












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