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一粒の涙の理由










「じゃあどうする?とりあえず、俺と付き合うか?」



未だ俺の目の前に座り俺を見つめる女にそう言った。



「付き合う?」

「あー……俺と、恋人になるか?」


「………だめ」



少し間があったが、女は確かにそう言った。

だめ?


俺を、受け入れない?



「……何でじゃ」

「だって私は、貴方を愛していないもの」



可笑しな話じゃ。

この女は愛を知らんのやったな。

なら、恋人になる意味も判らんじゃろ。



「……お前さんは変じゃな」

「よく、言われる」



そう呟き、何故か女は空を指差した。



「?」

「……雀」

「雀?」


「小さい頃、飛べずにもがいてる雀を拾ったの」



女は前触れもなく語りだした。



「それを、近くに居た子に見せたの。……そしたら、その子たちは逃げちゃった」

「……鳥が、嫌いやったんか?」

「違う。汚かったから」

「………」


「あの子、水溜りでもがいてたの。だから、濡れてた…」

「……で、どうしたんじゃ」


「私一人でどうしようも出来ずに居たら、そのうち段々と動かなくなって……」

「………」


「気付いたら、息もしてなかった」



女は特に表情を変えずに言った。

ただ、時折瞬きをして瞳が動くだけだった。



「あの時、どうしたら良かったのかな」



俺は答えられなかった。



「どうしたら……あの子を元気にしてあげられたのかな」



とても、答えられる問題ではなかった。



「それ、愛≠ノも関係してるのかな。他の子たちみたいに見捨てるのが愛≠ネの?」



悲しそうに瞳が揺れたのに気付いた。



「………お前さんは、どうしてそんなに愛に執着するんじゃ?」



そう聞くと、女は俺の目から視線を逸らし、俺の胸板辺りまで目を落とした。



「……皆、私を愛も情も無い子≠チて言うから」



何とか聞き取れるくらいの声の大きさで呟いた。



「意味は判るの。でも……実際に受けてないから」

「……愛情を、か?」

「そう。私…ずっと独りだったから」



少しの風が吹き、女の綺麗で長い黒髪がなびく。

この女は、本当にずっと独りなのだろうか。



「……家族は?」

「知らない」

「……知らん?」

「何時の間にか、居なくなってた」


「……友達は?」

「居ない。皆、私から遠ざかっていくの」



だとしたら今、この女を支え、共感する奴は居らんみたいじゃな。


……この、今にも壊れそうな女には。

誰も、止めようとする奴は居ないんじゃな。



「……俺が、愛してやるよ」

「え……?」



聞こえなかったらしく、女は聞き返す。

だが、二度言う気はない。



「お前さん、名前は?」

「……如月愛璃」


「俺は仁王雅治。雅治でええからな、愛璃」

「……雅治」

「ん?何じゃ」


「貴方は、私の傍に居てくれるの?」

「ああ。居てやるぜよ」


「………」



すると、女……愛璃は一粒だけ涙を流した。


判ってきたぜよ、如月愛璃という人間が。



今まで、寂しかったんじゃろ。

不安だったんじゃろ。


誰も近くに居らんくて。



だが、これからは俺が傍に居る。


――愛してやるよ。

























一粒の涙の理由
(俺がお前さんの隅々まで……理解してやるぜよ)












あきゅろす。
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