本気と、偽り
<仁王視点>
俺は
本当の愛なんて無いと思っとった。
あるのは偽りだけ。
だってそうじゃろ?
俺に近寄って来る女共は、揃いも揃って同じ目をしている。
あれのどこが愛≠フ込められた目じゃ。
ただ、俺≠ニいう存在に近づいて、自分を光らせたいだけじゃろ。
ばればれなんじゃよ。
それでいて大好き≠竍愛してる≠ネんぞほざく。
「雅治……好き」
今目の前に居るこの女もそうじゃ。
「………で、何じゃ」
「その…キス、して?」
「……勝手にしんしゃい」
そう言うと何の躊躇いもなく目を閉じて俺に唇を重ねる。
自分勝手な女じゃと、すぐ舌を入れて来るがな。
「……じゃ、じゃあね」
ほんの数秒目を閉じてその女は唇を離しその場を去った。
ほれ、キス目当てじゃろ?
「はー……」
長く溜息をしながら唇に残った煩わしい感触を袖で拭う。
「うっとい」
一瞬だけ吐き捨てて、俺は空を見た。
すると、横の方からガタ、と音が聞こえた。
「あ……」
目で音の方を見ると、屋上のドアがある横の壁から一人の女が出てきた。
女は真っ直ぐ俺を見る。
「………」
「………」
だが、見るだけで言葉を発しようとしなかった。
俺は、心の中で面倒だと思いながら、
「お前さん、さっきから居ったんか?」
「……」
聞くと、女はゆっくり頷く。
「……じゃあ、今の見とったか?」
「………」
今度は少し間があいて、だが女は頷いた。
「そうか。……なら、今のは忘れんしゃい」
「何で?」
今だけ女は素早く返答した。
「……忘れて欲しいからじゃよ」
「ふうん……」
納得したかと思うと、女はてくてくと俺に近づき、
「さっき、何してたの?」
「何って……見とったんじゃろ?」
また頷く。
「なら、判るじゃろ」
今度は首を振った。
「……偽りの愛を交わしとったんじゃよ」
「いつわり?」
「ああ、嘘の事じゃ」
「唇と唇をくっつけることが?」
女は人差し指を自分の唇に当てながら言った。
「唇と唇をくっつけるのが、愛≠ネの?」
「……何が聞きたいんじゃ、お前さんは」
ワケが判らん奴じゃ。
本気で言っとるんか?
「愛≠ェ何なのかが知りたい」
今だけ、目の前の女はおどけた感じじゃなく、真剣に言った。
「……愛≠ェか?」
「愛=c…って、どんな気持ちなの?」
そして、今度は悲しそうな顔をした。
……これは、本気で言ってるようじゃな。
「しょうがないのう。俺が、お前さんに愛≠ニやらを教えてやるぜよ」
「本当?」
本当は少し面白半分だったのもあった。
だが、あまりにもこいつが哀しい目をして、それなのに感情の無い瞳や態度を見ると。
つい言葉にしてしまった。
「本当じゃ」
だが、俺もお前さんと同じ気持ちじゃからな。
本気の愛=c…か。
俺も、心の何処かで探し求めていたのかもしれん。
本気と、偽り
(好きと嫌い、お前さんはどっちに導かしてくれる?)
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