優しい嘘
「カレン。逃げるぞ。」
激しい揺れと轟音の中で、アシェルは先ほど兵士の背中に突き刺したナイフを縦に振って付着した血を飛ばした。
カレンは泣きながら小さく頷いて腕を抱えるようにして立ち上がる。
アシェルはカレン血まみれの腕を見て少し目を見開いてから、カレンの部屋にあるハンカチ2枚を取りカレンに近づき跪いた。
「いたっ!」
「ごめんな。少し我慢してくれ。」
アシェルはカレンの腕をあまり動かさないようにしてハンカチで傷口を押さえる。その後、出血が止まるまでアシェルはひたすら傷口を押さえていた。
「アシェルありがとう。」
カレンは小さく微笑むと、アシェルがハンカチの端を縛って腕を固定する。

「揺れがだいぶマシになってきたな。」
先ほどより揺れは小さくなってきている。しかし轟音、怒号、悲鳴、銃声、爆発音などは止まる気配がなかった。
「わたし歩けるよ。」
カレンが小さい声で呟くとアシェルはカレンの部屋の戸を開け、手招きした。
「アシェル。お母さんとお父さんはどこにいるのか知らない?」
カレンは不安そうにアシェルに語りかける。

(あの時の私にとっての最後の希望だった。)
カレンは戸口で向かい合う過去の2人を見てため息をついた。結末を知っている自分からするととてもつらい思い出だったからだ。

アシェルはカレンに寂しそうに微笑むと
「大丈夫。先に向こうで待ってるから。」
アシェルの優しい嘘だ。この頃にはカレンの両親は死んでいた。
カレンはホッとしたように微笑んでアシェルの後に続いた。

この後の壮絶な戦いによってカレンとアシェルは死の淵を幾度となく見ることとなる。

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