生きろ

「ごめんな。」


ヴァンクールがアシェルの顔を覗きこんだ。

「なっ…なんで。一番嫌なのはお前だろ!」


その言葉にヴァンクールは「ううん。アシェルを巻き込んだのは俺だし」と首を左右にふる。
「俺は大丈夫。何度も生かされた身なんだ、みんなが繋げたこの命。
無駄にはしないよ…」

アシェルにはヴァンクールの瞳に火がついたように見えた。
それくらい固い決意なのだ。
太陽の力を守りたい。という…



「でもな…、もし、俺が」

セイカを倒せなかったら…

アシェルは目を大きくした、聞きたくなかった。

「アシェルにこの力を託す。」


アシェルは目を細めてヴァンクールの頭を撫でた。

ヴァンクールは肩をびくっとさせたがおとなしかった。

「ああ。
俺が太陽の力を使えばいいんだろう。」

ヴァンクールはうなずく。
「月の力とうまく合わせれば、太陽の力の副作用を消せるはず。そのまま、アシェルの望む世界にすればいいから。」

そう言うとヴァンクールはアシェルから離れて庭に出た。

アシェルも縁側に座る。

「見て。大きな木だろ。
俺が小さいときからこんなに大きかったんだ。」

ヴァンクールは庭に生えている大きな木に頬をつけて目を瞑った。


―直径が2mくらい、高さは20mくらいあって、木漏れ日が庭を優しく照らしている。




そのまま急に
「今まで俺はセイカに2度殺されそうになった。」

ヴァンクールが縁側に座っているアシェルを見た。

「マリが死んだとき、
セイカが一人でこの庭で遊んでいた俺を見つけた時、」


アシェルは首をかしげ、
「そもそもなんでセイカはこの家に来たんだよ?」


「父さんを殺しに来たらしいよ、父さんが悲しむから俺を殺そうとした。」
ヴァンクールが悲しそうな顔をして呟いた。


「この理由はセイカに聞かないとわからないな。」



アシェルは黙って、
(ヴァンクールの父さんがなんかしたのか?)


頭がもやもやになる、
『そんなこと聞いたこともないよ。』
フレイルが隣に座って頬をかいた。


「俺には帰る場所がある。」
ヴァンクールはアシェル振りかえってにっこりする。

「そして還る土がある。」


ヴァンクールは木に触れて色々なことを思い出した。

―昔のことだからあまり覚えていないけど、


家に帰れば迎えてくれる母がいた。


なんでも教えてくれる父がいた。


なんでも聞いてくれる、おじさんがいた。


そして、いつも一緒にいてくれる兄がいた。


―俺は普通の家庭で育ち、幸せだった。

だからその生活をぐしゃぐしゃにした、

「セイカが憎いんだ…!」


ヴァンクールが泣き崩れる。
アシェルにはその肩を支えてやることしかできなかった。

「ヴァンクール。生きろ」
それと同時に風も哭いた。


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