夢の終わり
「ヴァンクール。しっかりしろ!」
アシェルの声でヴァンクールは目覚めた。辺り一面青い空間で倒れていたらしい。
「これは夢か?」
ヴァンクールは目をこすりながらあたりを見回す。少し先に両手を前に突き出し、お互い向き合っているフェリーチェとロズがいた。
「あいつらが戦ってる。逃げるぞ」
アシェルは寝ぼけてぼうっとしているヴァンクールを担いだ。時折、アシェルの目の前の風景がカストレに変わったり、バレンチアや全く知らない風景に変わったりするが、完全に我を忘れてしまうことはなかった。
ヴァンクールは苦しそうな声や、穏やかな声を繰り返し寝言のように発している。
「ヴァン!大丈夫!アシェル。カレンは?」
シエルも平気そうだが、鼻血を流している。
「カレンはフェリーチェの夢の中だ。あいつは大丈夫だ。」
アシェルはシエルの頭にポンと手を置くと、自分の顔に違和感を感じた。
鼻血だ。
『脳に負担がかかりすぎてる。頭を殴られてるようなものだからね。直接、心への負担はなくても、長居できる空間ではないよ。』
フレイルが考えるようにフェリーチェとロズを見つめる。
寝ぼけたヴァンクールを担ぎ直し、アシェルとシエルはロストエデンの入口へと走った。


「ロズ。あなたにはわたしは倒せませんよ。今あなたの存在は夢。ここは夢の中。目覚めたとき夢はどうなるかわかりますか?」
フェリーチェはロズに微笑みかけた。ロズは大きな牙をぎらつかせて、フェリーチェの頭に噛り付いた。フェリーチェの首は落ち、赤い血飛沫が青の空間を汚したが、ロズの前には微笑んだフェリーチェがいた。
「夢は醒めるものです。
ロズ。あなたはわたしの夢を邪魔しましたね。」
フェリーチェはにっこり微笑む。ロズはフェリーチェの言葉の意味を理解したのか、ロストエデンの入口へと走った。しかし、入口などどこにもなかった。
「フェリーチェ。」
「カレン。ようやく目が覚めましたか。」
カレンは大きく伸びをすると、三人しかいない空間に目を丸くした。
「カレン。時間がありません。
わたしはあなたに力を託します。そしてロズはわたしが責任を持って連れて行きます。」
フェリーチェはロズに手を向けながら、カレンの方を見ずに続けた。
「わたしが目を開いた瞬間にこの夢は終わってしまいます。急いでみんなの元へ走ってください。」
カレンはゆっくり起き上がると、フェリーチェの方へ歩み寄った。
「なぜわたしに力を?フェリーチェあなたがここを出て魔核を封じてくれればいいのに。」
フェリーチェは眉を下げると、
「わたしがここを出ればロズは一生空の海を彷徨ったままになってしまう。この子を殺せるのはわたしだけですから。」
ロズは唸りながらフェリーチェの方に走ると、大きな爪でフェリーチェの首を裂いたり、腹を抉ったりした。しかしその一瞬後にはもとの姿に戻っている。
「どうしてそこまで。」
カレンは目を細めながら、繰り返し吹き出すフェリーチェの真っ赤な血を眺める。
「ロズを死ねない体にしたのはわたしですから。」
ようやくカレンはフェリーチェの目の前までたどり着いた。ロズが唸りながらカレンの体ごと切り裂くが、痛みも傷もない。
そしてこれも夢なのだろうか。一瞬微笑んだフェリーチェの目元が煌めいた。

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あきゅろす。
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