夢対夢
フェリーチェが静かに立ち上がった瞬間、アシェルの頭の中にカレンの優しい笑顔が映った。
「アシェル。この空間にいてはいけません。」
フェリーチェはゆっくりとロズの方へ歩み寄る。ロズはただ口角を上げ真っ赤な牙を覗かせた。ロズとフェリーチェの距離が残り10m程度になった瞬間、風をきる音と同時にロズの顔が弾け飛ぶ。
その対角線には大弓を構えたキセキがいた。人で言う脳から血を吹き出しているが、口角は上がったままのロズは背中についた悪魔と天使の羽を羽ばたかせた。
その瞬間、キセキとミンティアの体が吹き飛ぶ。
「いけません。ロズの体を傷つけることはできません。彼の存在自体が夢なのです。」
正直意味がわからなかった。この空間が幻術の中だと言うこと、先ほどまで幻術の中で夢を見ていたということ、そしてロズ。この化け物自体が夢だということ。全て事実であるが、この体験を頭で処理することは不可能だった。
「あなたたちは直接こころにダメージを受けています。この空間に長居すると心が死にますよ。」
フェリーチェは背中を向けたロズに手を向けた。しかしロズはヴァンクールに手を向けた。

「は?」
ヴァンクールが瞬きをした瞬間、風景が一変した。ヴァンクールはミカミのご神木の前に座っていて、目の前には刀を構えた時雨が立っており、周りには自分を中心に円になったアルフレッドやフェアリーを含めた村人たちがこちらを見ていた。
「あなたのせいでバレンチアは堕ちたのよ。」
フェアリーがヴァンクールを見下ろしながら小さい声で呟く。ヴァンクールは額に汗がにじむのを感じた。
「!!」
声が全く出ない。時雨は長い刀をヴァンクール首めがけて振り下ろした。
ヴァンクールは目を見開いて刀を見つめる。自分の視界から刀が消え、刀が風をきる音が耳元で聞こえた瞬間。
「その悪夢はわたしの夢が消しましょう。」
この歌のような声を聞いて、ようやく自分が夢を見ていたことを思い出した。
そのとき、ヴァンクールの目の前には可愛い黒髪の少女が立っている。
「マリ。」
マリはにっこり微笑むとヴァンクールを抱きしめ
「」
耳元で優しく呟いた。





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