俺の右目

(動けない。)
あの縁なしメガネの下の深い青い瞳がヒロをとらえて離さない。

「久しぶりだな。10年、いやもっとか。」
先に口を開いたのはアルヴァだった。

ゆっくり近づきながら、右手の刀をヒロに向けて振り下ろす。
嫌に赤々とした刀。
ヒロの刀とは違ってリボンがついておらず、少し長い。
でも、ヒロの"霞"と同じような刀だということはわかった。

『3輪の華。』
霞は"華"という作品の一本だと聞いている。
霞とアルヴァのとそして椿の刀なんだろう。

「そして、ラグナ、シルビア。お前たちが並んでいるのも久しぶりだ。」
不意にアルヴァが呟いた。

(ラグナ。)
この名前をヒロは知っていた。そしてこれが自分を指しているのだということもすぐ思い出す。

「俺は寛人だ。」
ラグナとは俺がカストレにいた時の名前。

(たしかこの名前が嫌いだったんだ。)

「お父さん。私は正直この戦いには関われない。
ヒロとは、私は血が繋がってる。だから。」
椿が隣でアルヴァに聞こえるように大声をだした。

(俺とは。)
椿の言葉が鼓膜につっかえた。
「やっぱり。俺たちはあんたの子供じゃないんだな。
俺はあんたが母さんにきつく当たってるのは知ってた。」
「ヒロ。」
椿が急に言葉を挟んだ。

「あんたが母さんを殺したんだろ。そして俺たちの父さんも!」
「ヒロ!」
椿がヒロの肩を掴んで叫んだ。

ヒロは「なに。」と驚いた様子で椿を見つめる。

「私とおまえはな。」
その直後に放たれたアルヴァの言葉にヒロは目を丸くした。

「どういう!?
姉さん?」
意味深な言葉の数々に状況についていけない。

ヒロはそのまま下を向いたと思うと、

「くどいんだよ!さっさと言えよ!」

普段あまり大声を出さないヒロが急に叫んだ。

キッと椿を睨み付けると、椿はただ前を見据えていた。
そして「はぁ。」とため息を吐いたかと思うと、急に自分の紫の右目に手を添えた。
「何を。」
ヒロの目の前で椿は目に指を近づける。

ヒロはただ呆然とそれを見ていた。
椿が手を離した瞬間、
「私たちのお母さんの目の色って青いの。
もちろん血縁者もほとんど。」

ヒロがはっとして椿の顔を見る。
「嘘だろ。」

椿の両目は"青"かった。
そして指には紫のカラーコンタクトがついていた。

椿はカラーコンタクトを地面に落とすと、ヒールで思い切り踏みつぶす。


それを見てヒロはぞっとして自分の右目に手を添える。
「じゃあこれはなんだよ。」

右目に確かについた紫の瞳。
椿と血は繋がっている。アルヴァとは繋がっていない。

答えはひとつしかない。

「かすみはなあ。違う男との子供のお前に、生まれてからカストレを出るまで、親の瞳が紫色なんだ。と嘘をついて、不倫を隠してたんだ。私は騙されていた。なあ。かすみ。」
ヒロは目を見開いた。

あまりの衝撃にどうしたらいいのかわからない。

アルヴァが『騙されていた。』で終わってくれれば、ここまで混乱しなかっただろう。

しかしアルヴァは最後に自分の赤い刀に辛そうに笑いかけたのだ。


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