アルヴァ

白い廊下がいつもより長く感じる。

昔、友達の見舞いに来たときはこんなに長かっただろうか。
いや、あのときは周りがうるさくて。それでいて、たくさんの人とすれ違っていた。

ー今は何もない廊下を2人で、しかも椿のヒールの音しか聞こえない。

カーン、カーン
テンポよくなる音がヒロの不安な心を余計に煽る。


「どこにいるんだ。」
この空気に耐えられなくなったヒロは椿にどうでもいいことを聞いていた。

ただこの不安を掻き消そうと必死になっていた。
どこにいようとアルヴァはアルヴァ。強さや立場が変わるわけない。

「学校。」
その一言にヒロは(やっぱり。)と思っただけだった。
この町で広いところなんて、学校の体育館か運動場しかない。
しかもこれだけ町は静かなんだ。
みんな学校にいないはず。

刀を抜くにはうってつけの場所なのだ。
すなわち、アルヴァは俺をー


特に心のもやが解消されるわけでもなく、白い廊下をただ進むだけだった。

ーーーー

「おばさん。」
杏理を先頭に、ヒロの母親の病室にはいる。

ヒロの母親は杏理の顔を見るなり、泣き出しそうな顔をした。
「寛人が…椿ちゃんも寛人を殺すきだわ。」
綺麗な顔を歪めて、今すぐ飛び出しそうな勢いだ。

「おばさん。」
「私の体が動けば!」
「おばさん!」
杏理が急に大きな声をあげる。
そして、いつもの優しい顔に戻った。
「大丈夫です。ヒロくんは大丈夫。
嘘をつきません。大丈夫。」
なだめるように杏理はヒロの母親の隣に座った。

だんだんとヒロの母親は落ち着きを取り戻す。
「寛人。」

シエルはそれを見てゆっくりと病室を出た。ランナもそれに着いていく。

ーーーー

「シエル?」
病室の前でランナが小さく尋ねた。

「姉弟が殺しあいなんてするわけないよね。」
シエルの声が震えている。
先ほどのヒロの母親の言葉。
『椿ちゃんも寛人を殺すきだわ。』

ランナは目を伏せた。
すれ違ったときに、椿はただ前を向いていて、ヒロのことを気遣うような様子はなかった。
あの一家になにがあったかは知らないが、なにかしら欠けていてどこかおかしいことは、精神を専門としていないランナでもわかる。

姉が弟を、父が息子をーそんなことが
(あるかもしれない。)

ーーーー

一ヶ月ぶりの学校。
いままで、このグラウンドを部活で走り回っていた。

ー何もなくてだだっ広い自分のフィールド。

その中心にひとつ、人影があった。

この土地には似つかわさない赤茶色の長い服の裾を翻して、金髪メガネ。青い瞳。
アルヴァ・ブラックである。

そして、右手には赤い刀身の刀が握られていた。


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あきゅろす。
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