ヒロvsリンゴ

「ヒロ!
あんまり疲れるのはいけないから、軽く魔力を高める訓練をしよ!」
シエルが顔の前に拳を振り上げた。

「はい!先生!」
ヒロも顔の前に拳を振り上げ、大きな声で返事をする。
とても16歳と18歳のやりとりにはみえない。

(あぁー。)
シエルは明らかにその「先生」という単語に心踊らせていた。
しかし、「先生」という立場。大人の振る舞いとして、顔には出さないようにしているつもりであった。



「魔力を高めるには集中力が必要なのは知ってるでしょ。」
シエルは目を丸くして微笑む。
ヒロは真剣な眼差しで頷いた。

「細かい作業をするのは集中力がいる。」
シエルはそういいながら、地面の砕けたリンゴを指さす。

そして、
シエルは指を上に振り上げた。
「はっ!」
ヒロは元々光を持った目をさらに輝かせ、リンゴを見つめる。

粉々のリンゴが、シエルが空中に浮かせたあと、なんとなく元の形に戻ったのだ。
「すごいな。」

やはり高い魔力を持ったシエルならではの使い方である。
風の力の強さと向きをうまく調節して、リンゴを元の形に近い状態に保っている。
「ヒロ。これを空間の力でやってみて。」
シエルはそのままリンゴに向けている指を地面に向けた。
すると、リンゴはシエルの指に従って、元の場所へゆっくり落ちると、また砕けた。

ヒロはそのリンゴを見つめて唾を飲んだ。
そして、片手をリンゴに向けてからクイッと上に向ける。
砕けたリンゴはヒロの手に従うように空中へ浮くが、リンゴは砕けたままである。
「それ!いけっ!」
シエルが隣で声を上げた瞬間、ヒロは手に力をいれた。

しかし、リンゴは中央に固まっているが形はぐちゃぐちゃである。
ヒロは汗をかきながら、誰に話しかけているのかわからないが、
「リンゴー!」
と困った声をあげた。

「ははは。上出来だよー。圧力を変えるだけで、リンゴの形に戻したら、それこそ誰でも倒せそう。」
シエルは笑った。

そのまま、食器棚へと小走りで向かうと、小さな皿を取り出してきた。
「後でアシェルになんとかしてもらおう。」
シエルは皿をリンゴの下でささえる。
「ありがとうございます。
先生!」
ヒロは力を緩めると、リンゴが皿の上に小さな音をたててのった。

「でもこのリンゴ、地面についたよ。」
ヒロが微笑むと、シエルは目を丸くして
「あははは!ほんとだ!
さすがに粉々になったリンゴは食べれないか。」
と笑う。

ちょうどその時、
「ニャー」
と大きな鳴き声が奥の廊下から聞こえた。



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