軌跡と如月
キセキ目線
そう。
この少女、キサの心刀の主は俺。
この少女、キサを殺したのも俺…。
キサはある実験のモルモットだった。
それはモルモットである人間の体を傷付ける訳ではない。
ただ、診断を繰り返すだけだった。
ミカミにその研究員たちは来ていて、ミカミの何人かに実験を手伝ってくれるように頼んでいた。
「聞いてくれ!
カストレから世界を守れるぞ!」
その言葉とお金だけで、そして研究員たちも自らが被験者であることを告げ、この実験に害がないことを認めさせる。
その時にキサは声をかけられた。
バレンチアとカストレの戦火は広がるばかり。
ミカミの全員の恩人であるバレンチアを守りたい。
その一心だったそうだ。
ーーーー
ある俺の弓の稽古の日キサに言われた。
「今は何もないけど、私が死んだら。」
「はっ?」
キサはずっと下を向いていた。
「口止めされてたんだよ。
この実験は遺伝子の組み換え…なんだって。
私が死んだらその反応が起こるようになってるの。」
俺は固まった。
「だから、キセキ。
私と契約して。」
俺は目を見開いて、信じられないと言った様子でキサを見る。
「キサラギ…?」
キサの目は涙で濡れていた。
「きっともう少しで私の番なの。
私たちモルモットは戦争の兵器になるんだって。
キセキ、…お願い。
これから私と会えなくなるんだから。」
「もし、契約したら…?」
するとキサがにっこり笑う。
「また。会えるよ。」
ーーーー
俺はキサと契約してしまった。
そして、今から5年前。
その日はやって来た。
カストレとバレンチアの激しい戦い。
カストレから世界を守るための実験=バレンチア側の兵器になる実験。
キサは俺の知らない間に出ていっていて、被験者たちは全員ミカミの集会所に集まっていた。
そこで、研究員たちに全員が殺されたのだ。
もし、遺伝子組み換えが成功したならばそのままカストレの戦場に送られていたのだろう。
しかし、失敗だった。
俺が集会所に着いた時にはそこは血の海。
集会所では、すでに研究員の姿はなく。力を制御できなかった被験者同士が殺しあいをしていたのだ。
そこにはもちろんキサもいて…。
でも、もうキサではなかった。
キサと同じ、先に赤い数珠玉のついた髪飾りがついていたから。
「キセキ!
ここはダメじゃ!
逃げなさい。」
椎葉のじいさんの声がして振り返ると、じいさんはもう人間ではない被験者たちを刀で斬っていた。
俺はゾッとした。
今まで仲良く話してきたミカミの人間を殺している。
いや、殺す以外に何もできないのだ。
その時…キサがこっちを見ていた。
明らかに俺を殺そうとしていた。
長い爪を牙をギラつかせて俺の方へ走ってくる。
俺には時間が止まって見えた。
「これがフラッシュバックか…」
昔の情景が細切れになってはっきりと思い出されていく。
「キサ…!」
俺は弓を構えた。
「ア゛ァア!」
目の前には正真正銘、キサが声をあげて走って来ている。
「…キサ…!」
俺は涙をためながら弓を引いた。
「貫け!!」
俺は勢いよく矢を放った。
矢はスピードを落とすことなく、一直線にキサへと向かっていく。
ドンッ
矢はちょうどキサの頭を貫通した。
そしてこの日は俺は初めて人を殺した日。
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