優しく受け入れて

「久しぶりだ…。」
サギリは本当に久しぶりに帰ってきたミカミの村を歩いていた。
サギリが村を抜け出したときから何も変わっていない。
緑が美しくて和風な家屋。
サギリがキョロキョロしていると不意にランナが
「嬉しいの?」
いきなりすごいところをついてきた。

サギリはうーん。と少し困ったような顔をしてから、
「私は嬉しいが、この村がここの人が私をどう見るかだよな。」
と呟く。

サギリはミカミの考え方を否定して抜け出した。
(この私を受け入れてくれるのか…)


その時だった。
後方から気配を感じた。
しかもものすごくわずかに、意図的に隠れているのだろう。

「誰だ。」
サギリが振り返らずにいい放つと、

「俺だ。」
と懐かしい低い声が返ってきた。

サギリはその声にバッと振りかえるとそこには後ろでひとつに結んでいる着物の男。
「時雨さん!」
先に彼の名前を言ったのはランナだ。

「よお。
ちょっとぶりだな。」
とニコッと笑って右手を挙げた。

サギリは自分から話すことができず、黙っていると
「やっとわかったのか?
この村に帰ってくるってのはそういうことだ。」
時雨が腕を組みながらゆっくりと歩いてくる。

時雨はピタリとサギリの隣で止まった。
「私は…
アストラシアに契約を破棄しに行こうと思う。」
時雨は目を瞑ってサギリの肩にポンと手をおいた。

「ヴァンクールは悪くなかっただろ。」
サギリは小さく頷いた。

ランナにはその表情がとても自然で穏やかに見えた。

「時雨さん。
椎葉さんに会えますか?」
ランナが真剣な眼差しで時雨に問いかけると、
「ああ。お前たちはここに戻ってきたんだからな。」

ーーーー


「失礼します。」
数日前に訪れた城の最上階にもう一度案内された。

部屋の中にはあの老人椎葉が背を向けて座っている。
「サギリか。」
椎葉は振り返ることなく、サギリの名を呼んだ。

その威厳のある声にサギリは一度肩を跳ねさせる。
「帰って参りました。」
サギリは椎葉の後ろで正座をすると軽く礼をした。
隣にランナが座る。

するとようやく椎葉が立ち上がってサギリたちの方を向いた。
「勝手に村を抜けて申し訳ありませんでした。」
サギリが先ほどよりも深く礼をすると、

「お前は何を思った。」
と問いかけてきた。
サギリは一度唾をのみ込むと
「私は怒りに身を任せていました。私は…「お前はずっと悩んでいたな。
己の進んでおる道が正しいのかどうか。
結局全てを知って、何をすればよいか…わかったようじゃな。」
サギリは椎葉の言葉に目を丸くした。

「ヴァンクールがどうなったとかも知っておるよ。
今は治療が終わるまで待つしかないな。」
「えっ…?」
サギリもランナも椎葉の言葉に驚いた。
何もかも知っている。
そんな様子だからだ。

「わしに情報を流してくれているんじゃよ。」
椎葉はサギリとランナの驚いた様子を見て笑う。

それとほぼ同時に襖が勢いよく開いた。
「じいさん。…」
「タイミングがいいなあ。」
椎葉が笑うと同時に、サギリとランナがバッと振り返る。

「サッギリさあ〜ん!
お帰りなさい!
ま〜た一段と綺麗になって!」
そこには茶髪の眼帯をした青年が目をキラキラさせながら立っていた。

「奇跡…。
まさかお前がミカミの情報部なのか…?」





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