何もできない

「そろそろミカミだよ!」
ヴァンクールの寝ているベッドにもたれかけて眠っていたアシェルの元にシエルが駆け込んだ。

「俺はどれくらい眠ってた?」
アシェルがソルフレアまで行った時の時間はこんなに短くない。
と思ったからだ。

「1日くらいぐっすり。」
シエルは優しく微笑む。
(俺、そんなに寝てたのか。)
アシェルはんーっと伸びをしてから、おこさないようにヴァンクールを背中におぶって部屋を出た。

ーーーー

ランナの「着いたよ!」というアナウンスでアシェルはすぐに飛行船から降りる。
懐かしい景色をじっと見つめる暇もなく、すぐそこに立っているヒロと目があった。

「あっ。おはようございます。
すぐにヴァンを病院へ、」そういってヒロはまた右手を差し出した。

アシェルはびっくりして目を丸くする
「えっ。大丈夫なのか?」
「俺は魔力を高める訓練を始めたんです。
徐々にならそうかなって。」
その言葉に戸惑いを見せながら、アシェルはヒロの手に自身の手をおいた。

ーーーー

「っ!」

…一瞬で景色がかわることにはやっぱり慣れない。

風景はミカミを囲んでいる森から、一瞬にして病院に変わった。

「お久しぶり…あっ!」
ミカミのナースがパタパタと近づいてくる。
一瞬で現れたことに驚きを示したのではない。
ヴァンクールが重傷なことに驚いているようだ。
(さすがミカミの人たちだな。
慣れてる…)

ナースはヴァンクールの様子を一目見るなり
「誰か手を貸してください。」
と叫び、
「はい!最善を尽くさせていただきます!」
とアシェルの肩からヴァンクールをおろした。

すぐに駆けつけた医師たちによってすぐに病院の奥へと運ばれて行った。
正直、アシェルは先ほどのエヴァのことが心配だったが、
『大丈夫だよ。』
というフレイルの言葉を信じたのだった。

ーーーー

アシェルとヒロが待合室で座っていると、
「アシェル!ヒロ!」
とシエルの声がした。

やっと病院にたどり着いたようだ。
「ヴァンは?」
シエルははあはあ言いながらアシェルの方へ小走りで来た。

「多分大丈夫だ。
ミカミの医者を信じよう。」
その言葉にシエルは眉を寄せたまま笑ってうなずく。
「ランナとサギリは?」
ヒロがたずねると、シエルはヒロの隣の空いている席に座りながら
「椎葉さんに会いに…。」
「そうか。」
「ヴァン元気に出てくるといいね。」

「シエル…」

シエルが言葉を言いながら大粒の涙をポロポロと溢したのだ、


「ヴァン〜…
ヴァンがいなくなったらあたし、もう生きていけない。どうしよう。」
アシェルはシエルの頭をポンと触った。


(シエル。大丈夫、大丈夫だよ。)
アシェルは心のなかで呟いた。


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あきゅろす。
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