それまでは

先ほどまでリングを囲んでいた兵士たちはもうそこまで来ていた。

「サギリ!アシェル!
あたしも手伝う。」
シエルがアシェルたちまでの通り道の兵士を鎌の峰でなぎ倒しながら、どんどん近づいてくる。

「アシェル。」
ヴァンクールを見てから心配そうにアシェルの顔をみあげた。

「ここの医療はうけられない。
飛行船が来たら、ミカミに戻るぞ。」
アシェルはシエルを見ずにまっすぐ兵士たちを見据えている。


それを見て安心してシエルはうなずいた。
そして体に風を纏う。

となりにいたサギリはそれを見て
「シエル…風は痛くないのか?」
「自分の力だしね。」
その後一瞬、サギリは目を泳がせたと思うと、
スッ
と軽く一歩踏み出して、兵士たちに寄った。

「何する気だ?」
ざわざわと兵士達が話し合っている。
アシェルはその様子を見てからヴァンクールを挟んでサギリの反対側に足を進めた。

「シエル。
私も出来る。」
サギリは黒い艶のある髪をなびかせて、兵士を見ながら呟いた。

シエルはその背中に安心を感じる。

サギリがスッと指を上げたと思うと、暗く曇っていた空がさらに真っ暗になった。

(まさか!)
シエルはヴァンクールの側に寄りながら暗い雲を眺める。
一瞬、雲の間を光が走る。

その瞬間だった。
ドンッ!

空が眩しく光ったと同時にリングの上に雷が落ちる。そして大量の雨が降りだした。

「うわっ!」
急な落雷と大雨に兵士たちはたじろいだ。


その瞬間にサギリが急に動き出して、兵士を見事な蹴りや拳でなぎ倒していった。

シエルにはその一撃一撃に一瞬光が発生しているのがわかる。
(まさか。)
『サギリ、放電してる。』

一撃にすごい電圧の電気を流すことで、いわゆるスタンガンのようになっているのだ。

(まさか、天気まで従えるなんて…)


ーーーー

アシェルは目の前の兵士を心刀を構えながらただ見つめていた。
アシェルの赤い瞳はそれだけで威圧感がある。

正直アシェルの力はほとんど対能力者用である。
アシェルは自分のナイフの腕に頼るしかなかった。

しかし今はそんなことはどうでもよかった。
悔しさと怒りがアシェルを支配している。


アシェルは心刀を逆手にかつ利き手でない左手に握り直す。
『防御用?』
フレイルの言葉にアシェルは
(まあな。
お前の力を借りる。)
といい放つ。


いつまでも斬りかかってこないアシェルにしびれを切らした兵士2人が斬りかかってきた。

キンッ
アシェルはその剣の一撃を左の心刀で受けたあと、そのまま心刀が短いからできる、受け流しをしてから、よろけた兵士を蹴飛ばしつつ、もう一人の額を右手で思い切りついた。

2人が倒れるのをみた兵士達が全員でアシェルに斬りかかった。

その瞬間、アシェルは思い切りしゃがむ。
その上をすごい速さで風がとんだ。

…シエルの鎌鼬だ。
その鎌鼬に見事にあたり、兵士たちは空を舞った。

それとほぼ同時だった。
遠くから徐々に
ヴヴ…
と機械音が聞こえてきて、影が濃くなった。
「やった!」

そう。
飛行船だ。
やっとここまでたどり着いたのだ。

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