血の紅


コロシアムにいる全員の視界が眩い光によって遮られた。

(あぁ…。)
アシェルにとっては絶望の光であった。
それは今まで何度か見てきた絶望の光…


いつかはこの時来るとはわかっていた。
しかし予想以上に早かったのだ。


その時だった、


「ああ゛ぁああ゛!」
まだ誰の視界も晴れていない時に、今まで聞いたことのないような悲痛な叫び声がコロシアム内の動揺の声をはねのけてリングに響いた。


アシェルや気を失っていたシエル、サギリも目を覚まし、その叫び声にぞっとした。
「ヴァン…」


ー今は彼らの心情を受けているかのように空が黒く曇っている。
今にも雨が降りそうだ。

コロシアムも困惑の声はほとんどなくなって、静かになった。


シエルはぼやける目を擦りながらゆっくりと立ち上がる。
だんだんと視界が開けて来たからだ。

目線の先には赤しかみえない…
(セイカがいない…?)


そう。先ほどいたはずのセイカがもういなくなっていたのだ。

ーーーー

アシェルは目の前にいまだにかかっていたバリアを月の力でかきけす。

一度目をぎゅっと瞑ってゆっくり開けると視界が幾分かましになっていた。


そのままアシェルはよろけながらヴァンクールの方に目をやると
「っ!」


ーあまりの光景に言葉が出なかった。

目を大きく見開いたままアシェルはただつっ立っている。


ヴァンクールは顔を手でおおって地面に埋めて小さくなっていた。しかしその顔を伏せている地面が真っ赤なのだ。

正直誰が見てもわかる。
…血だ。


そしてそれとほぼ同時に
「全員!突入しろ!」
威厳のある男の声と同時に周りにスタンバイしていた武装した兵士がリングに上がってきた。

アシェルは反射的にヴァンクールの方へと走る。

先ほどの試合を見ていてもセイカが世界にとって危険なことは誰にでもわかる。

…その心刀の契約をしたヴァンクールを殺すのは当たりまえなのだ。

アシェルはヴァンクールのもとへ滑り込むように近づくと
「…アシェル?」
いつもの低い声、しかし苦しそうにヴァンクールが呟いた。

「耳は大丈夫。でも今度は目がやられた。見えない。」
アシェルがヴァンクールの目元に目をやると、押さえている手の指の隙間から、大量の血がにじみ出ていた。

「セイカにやられたのか?」
その言葉にヴァンクールは首をふる。

「契約した瞬間に弾けた感じかな、なんでこんな感じになったんだろう。
こんなの聞いたことない。」
その瞬間、
アシェルはバッと後ろを向く。

目の前には武装した兵士が数人立っていて、明らかに2人に斬りかかろうとしている。

アシェルが心刀を出して構えた。
その瞬間、
「ぐあ!」
バキッ
嫌な音と同時に兵士が倒れる。

「飛行船が来るまでの我慢だ。」
兵士の後ろに立っていたのは拳を構えているサギリだった。

アシェルはその言葉にうなずいて立ち上がる。

「アシェル…。」
「大丈夫。」

大丈夫。今度は俺がお前を守るから。

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