地獄

ヴァンクールは降参を促すために銃でヤマトの頭をつつく。

その時だった。
ヤマトが口を開いたのだ。

「お前に私が倒せるわけないだろう。」


(あれ…?)
耳が聞こえないはずじゃ…

パンッ


ーーーー


「どうなったんだよ。」
銃声を聞いたアシェルが呟いた瞬間、リングの上の火の海がなくなった。
いや…かき消されたといった方が正しいか。


「っ…!」
アシェルは息を飲んだ。

リングの上には仰向けのヤマトの上に座っているヴァンクール。
ヴァンクールはなぜか銃を持っていない。
ヤマトは…
銃をヴァンクールの右肩に突きつけていた。

『じゃあ、さっきの銃声はヤマトから?』
(あれは心刀か?)
わずかに光を放っている銃口から煙が出ていて、ヴァンクールの肩からは血が流れていた。

その時
「アシェルさん…見てください。」
ヒロが招待席を指さす。
茶髪の騎士が手すりから身を乗り出している。
(どういうこと?)
アシェルが聞き返すと

「なんで騎士ごときが王様や王子が見えなくなるような位置で見てるんだと思います?
しかも騎士が1人いませんね…
それと、あのヤマトってやつの拳銃…』

アシェルは目を丸くした。
「ヤバイ試合なのか…?」

ヒロは真剣な表情で招待席を見ている。そしてアシェルと目を合わせた。
「俺の勝手な想像ですが…」

ーーーー


ヴァンクールは肩の痛みよりも、今自分の置かされている状況に全神経を注いでいた。

ヤマトは自分の上で険しい顔をしているヴァンクールに
「なぁ。」
と額に銃を突きつけた。

なぜか聞こえるヤマトの声を聞いてヴァンクールはようやくはっとして、10mほど離れる。

(俺の勘違いだよな。)
ヴァンクールは拳を構えた。

ヤマトはゆっくり立ち上がって、ニヤリと笑う。
そして
消えた。

(っ!)
その瞬間、ヴァンクールはまた肩に激痛を感じる。

驚きすぎて、バッと右を見ると先ほどの銃弾の傷の部分に細いレイピアが突き刺されていた。

ヤマトはそのままレイピアを奥まで突き刺す。
「ぅぁっ!」
あり得ない激痛に顔をしかめながら、ヤマトの顔面に左ストレートをぶちこむ。

やはり当たるわけなどなく、右手で軽々と受け止められる。
そのままヴァンクールの体は浮いた。

そう、思い切り投げられた。

腰を思い切りリングに打ち付けて、うつ伏せになってリング上を滑る。
レイピアはいまだに刺さったままだ。

起き上がれずに倒れていると、前髪の付け根がいたんだ。
「うぅ…」
目の前にはヤマトの顔があった。
髪をつかまれているのだ。

「なぁ。」
ヤマトの左手が上がったのが見えて、
ヴァンクールは覚悟して目をつむった。

しかし違和感があったのは頭…

ーポンッ


全身に鳥肌がたった。
「久しぶり〜」


ヴァンクールは恐る恐るヤマトの顔を見た。
あの嫌な笑顔だ。


…やっぱり、


(セイカ…)



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あきゅろす。
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