ヤマト

「うっ…」
激しい頭痛に顔をしかめながらヴァンクールはゆっくり立ち上がった。

先ほどの熱風は晴れていて、目の先にはヤマトが腕を抑えながら立っている。

(俺の銃弾はヤマトの腕に当たったのか…。
痛っ…!)
波のある激しい痛み、原因は額のようだ。
ヴァンクールは額に触れてみる。

(やっぱり…)
額からはそれほど大量ではないが出血している。

かかと落としが当たったにしてはまだ軽い怪我だ。
きっとヴァンクールの銃弾の方が先に当たったのだろう。


ヤマトは…
未だに腕を抑えながら突っ立ってボーッとしている。

(…?)
ヴァンクールは額の血をシャツでぬぐいながら、不思議そうにその様子を見ていた。


その時、ヤマトの口が開いたと思うと、ヴァンクールに聞こえないが何かをぽつりと呟く。

ーそして消えた。
(はっ?)

びっくりした。
ヴァンクールにもほとんど見えない速さで隣を通りすぎて行ったから。

(ー!)
その瞬間、ヴァンクールを激痛が襲ったが、ヴァンクールはそのまま振り向いてヤマトの気配がするほぼ真後ろに銃弾を放つ。

しかしヤマトはいなかった。
いや、速すぎて見えなかったのかもしれない。

(とにかく、ここはヤバい…)
そう悟ったヴァンクールは翼を大きく羽ばたかせ、すごい勢いで大空へ羽ばたいた。

真下を見ながら飛んでいるとヤマトは先ほどヴァンクールがいたところに立ってこちらを見上げている。

ヴァンクールはそのまま真下に心刀を撃った。
銃弾は銃口から飛び出したあと炎の龍となってヤマトに向かって急下降していく。

ヤマトはそれをバック転をして避ける。
しかし地面すれすれのところで火龍は向きを変えてヤマトを追尾した。

ヤマトはそのままバック転を続けるとリングの端に来た瞬間、思い切り炎の龍を心刀で斬りつけた。

ヴァンクールは目を疑った。
(今のは、銃弾を切ったんじゃないのか…?
なんで炎まで…)

ヤマトは銃弾を切ったものだと思っていた。
しかし、剣はヴァンクールの太陽の力まで斬ってしまった…。


ーヴァンクールはもうこの町を一望出来るほどに高い位置にいた。
喉元に当たる風がいように痛い。
それに加えて、先ほどからの喉のガラガラしたような違和感。
それは自分の喉におかされている状況を物語っていた。

しかしヴァンクールは傷の状態をあえて確認しない。

(怪我の存在を認めてしまえば…
恐れてしまう。)
今まで負けることをあまり知らないヴァンクールは、今自分の流れる血の量で相手の力量を計算してしまう。


それに、ヴァンクールはもう降参は出来ない。
大会ルールの一つ
…降参するときは「降参」と宣言すること。
それ以外は認めない。

ヴァンクールは耳も聞こえず、喉も潰れていてすでに声は出くなっていた。

この決勝戦、勝つか大怪我をするかしか選択肢はないのだ。


[*前へ][次へ#]

38/63ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!