光と歓声の中へ
11時、
アシェルたちはコロシアムの観客席に座っていた。
それもかなり前である。
座席一列をシエルが陣取っていたのだ。
すると
「ここ空いてるか?」
一番端に座っていたランナは
「どうぞ。」
「あっ!」
アシェルがひょっこり座った観客の顔を覗き込むと、あの見慣れた顔で
「私もヴァンクールを見に来たんだ。」
艶々の黒髪を風になびかせながらサギリが微笑んだ。
すると
「私はヴァンクールを狙うのをやめる。」
サギリは急にリングを見つめながらポツリと呟く。
「ありがとう。」
アシェルは優しい声で返した。
サギリは少し驚いた顔でアシェルを見つめる。
「礼を言わないといけないのは私だよ。
ありがとう。」
ーーーー
ヴァンクールはコロシアムの周りを何周か走ってから、控え室へと向かった。
ヴァンクールはいつもより軽めのジーパンをロールアップしてはいていて、その腰にはバンドガンが2丁ささっていた。
一本は大きめの銀色、もう一本は真っ黒。
ヴァンクールが欠伸をしてから、ベンチで居眠りをしていると、
「なぁ。」
と肩を叩かれた。
「んっ…?」
ヴァンクールはゆっくりと目を開けると、目の前には最強の男…ヤマトの姿だった。
「こんにちは。」
ヴァンクールは口元だけ微笑む。目は全く笑っちゃいない。
「そんなに固くなるなよ〜。
気楽に戦おうぜ。」
ヤマトは満面の笑みである。
(あんたが緩く戦うわけないと思うんだが。)
今までの戦いぶりを見て聞いて、ヴァンクールが苦戦するのは目に見えてわかっていた。
一応相手は笑いながら右手を差し出しているので、ヴァンクールも愛想笑いして右手を差し出す。
ヤマトはヴァンクールの右手をギュッと掴んで、笑いながらブンブンブンと振った。
(痛ぃ!いだぃっ!)
こいつ…わざとやってるのか…?
「じゃあ俺また寝ます…」若干イライラしながら、ヴァンクールはこの状況から逃げるためにヤマトにうまく愛想笑いする。
「そうなのか!
悪かったなー」
ヤマトは納得したようにそう言い残して去っていった。
「フー…」
深いため息をついて、ベンチに深く座った瞬間、
「入場お願いします。」
と近くの警備員に囁かれる。
結局、ヤマトに邪魔されたために、あまり休憩できなかった。
「くそっ。」
ヴァンクールが立ち上がった瞬間
「それでは両者の入場です!」
ここからでもかなりの歓声が聞こえる。
ヴァンクールは眠い目を擦りながら、正午の目映い光に飛び込んだ。
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