知らなかったこと。

ヴァンクールは試合が終わったあとすぐにシエルの元へ走っていった。

「ブイッ!」
ヴァンクールはピースをしながら、本当に嬉しそうないつもは見せない子供のような笑顔で病室へ入る。

「ヴァン!お疲れー」
シエルはベッドに座っている状態でピースを返した。

「何したの?」
シエルは薄く笑いながら問いかけると、ヴァンクールは「よいしょ。」とシエルのベッドサイドに腰かけた。
「俺が太陽の力を使った時から、熱の流れとかで炎陣のなかには誰もいないことはわかってたんだ。
でも、リング内にはあのじいさんはいなかったし…、」
それからヴァンクールは前髪を手でときながら
「消えているか、ここにはいないか…。の二択に絞ってみた。」
シエルは目を丸くする。
「これまでの戦いの経験ってやつね。」

「消えているだけだったら、炎で死んでるし。
ワープしてるんなら、失格だしな。
そこで思い出したのは、空間の隔離ってやつよ。
その場の空間を切り取るんだ。
まあ、一種のバリアだな。」
「じゃあ勘みたいなやつなんだ。」

ヴァンクールはにっかり笑って
「最終的にな。さすがに相手の力は分かりにくいよな。」
「じゃあ最後に何言ったの?」
シエルが尋ねると、

「あれは隔離だったら、一応その場にいるはずだから…、まあ…えぐい脅しってやつだな。」
さすがのシエルも苦笑いだ。
「よくそんなにポンポン嫌な言葉が出てくるよね。
ヴァンとは口喧嘩したくないや。」
「へへっ。」


「そういや、次はミカミの人らしいね。」
その言葉でヴァンクールの目が変わった。
「あぁ。サギリだろ。
俺、昔からあいつ知ってるよ。」
「えっ!」
「そんな驚く?」
シエルは激しくうなずく。
「俺がミカミの出身なのは…言ってなかったな。」
シエルは目を丸くしただけだった。
「バレンチアが空に飛ぶ前に今のミカミが俺たちの村だったんだ。
その移住期間にセイカに襲われた。」
シエルは下を向いて静かにうなずく。
「完全に思い出したの?」
ヴァンクールはにっこり笑ってうなずいた。
「そうだよ。言ってなかったな。
サギリは兄ちゃんの友達。
俺が家族を殺したから、サギリは俺を恨んでいてもおかしくないよ。」
シエルは無性に悲しくなった。
(どれだけ悲しい人生なのよ。)

「俺は負けないよ。
この戦いに俺は命を賭けなきゃいけない。
俺の命だけでセイカを倒す方法がようやく見つかったんだ。
それまでは誰にも負けない。誰にも負けたくない。」
心を読まれたような気持ちだったが、シエルはうなずいた。
(それまでは…いや、出来れば一生。ヴァンに笑わせたいな。)

…世界の命運はヴァンの命だけで決まっている。

「そんな世界なら滅べばいい。」
シエルはヴァンクールに聞こえないように静かに怒りを口にした。


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