セイカの力

ヒロは夜の町をゆっくり歩いていた。
少し肌寒かった。


ヒロはベンチに座って携帯の時間を確認する。
すると、コツコツとヒールの音が聞こえる。

「待った?」
そこには茶色の髪をなびかせ、同じ目をした芳賀椿が立っていた。

「寛人、父さんのこと殺す気じゃない。」
椿はヒロの隣に座ってそっけなく呟く。

「逆だよ。あいつが俺を殺す気なんだ。」
椿は横目でヒロを見る。
「なんで姉さんはあいつにつくんだよ。」
椿は下を向いて

「アルヴァはあたしたちのお父さんだよ。」
ヒロはそれを聞いて急に立ち上がる。

「嘘だ!あいつは母さんを殺した。カサハラの母さんは違う人だった!」
椿はうなずいてから
「でも私は覚えてる。あの人との思い出。
寛人はきっと小さかったから覚えてないんだよ。」

「思い出なんか役にたたない。現にあいつはヴァンクールと一緒に俺も殺す気なんだよ。」
ヒロは頭を抱えて、地面にしゃがみこむ。

「寛人。」
ふいに名前を呼ばれて顔をあげる。

椿は肩にかかっている髪をよけて首が見えるようにしてみせた。

「っ…。」
ヒロは肩を震えさせて目をいっぱいいっぱい見開く。

「まさか…」
「うん。ランナ君と契約したの私だよ。」

ヒロは下を向いた。そして鬼のような目で椿を睨み付けた。
「なんで…」
すると椿もヒロを睨み付ける。

「私は生まれ育ったカストレを守りたい。寛人みたいに父さんを裏切ったやつにどうこう言われたくない。」

「だからって。心刀を増やしちゃだめだ!
しかも、ランナを…」
ヒロは怒りにまかせて腰の刀に手をかけた。

「ねえ。あんたがかわりのお母さんとカサハラで平和ごっこしてる間に…
私はずっと刀を握ってた。あんたは私には勝てないよ。
父さんは私たちの故郷カストレをいい国にしたいって言ってる。
今の国王が死ねば…
ランス王子がカストレを変えてくれる。
それまで待てないの?」
ヒロは刀を鞘から抜いた。

「バレンチアを潰しておいて、何が待てないの?だ。
おまえたちカストレが一方的にしかけて来てるんだろ。」
それを聞いて椿はフーッと息を吐いた。

「ヴァンクールとセイカが巡り会えば、きっと何かよくないことが起こる。
バレンチアはただでさえ戦闘値が高いから先に潰さないと、もしセイカに襲撃されてたらこっちがもっと不利になる…」
寛人は眉間にシワを寄せた。

「セイカの力はね"心刀の力"よ。
セイカは何人とでも契約できて、何人でも心刀にできる。」


ヒロは額に冷や汗を感じた。
「そんな…」

「うん。だから最強なんだよ。」
ヒロは地面を見つめる。
そして拳を握りしめた。

「カストレにはこないで。
次は命をかけた戦いになるよ。」
「っ!」
そう耳元で囁かれた瞬間、ヒロの意識は遠ざかった。


[*前へ][次へ#]

6/63ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!