残りはジャン
「あぁ゛ぁ!」
その瞬間、ナトリの悲痛な叫びがホールに響いた。
ナトリの視線はシエルの瞳に釘付けになる。
いや…反らせない。
シエルにとって能力はなんのリスクもない武器だった。
普通の人間よりも魔力が強く、能力を使っても全くつかれない。
そしてもう1つ、幻の力でナトリを倒す理由はあった。
「解毒剤は?」
どんな幻を見せているかはシエルとナトリにかわからないが、事実を吐かせるだけの方法はシエルも心得ている。
ナトリは
「一つは…あたし。」
唇を震わせ、
着物の帯から瓶を取り出した。
「もう1つは?」
しずかにジャンを指さす。
それを見て、シエルは交戦中のヒロに
「解毒剤はそいつが持ってる!」
と叫んだ
ヒロはシエルの方にチラリと目をやって、了解の合図として左手を上げる
その時
「あっ…」
シエルが音もなく、地面にふわりと倒れた。
ヒロは目を大きくした。
「ちょっ!何よそ見してるの?」
ジャンは若干焦って片手で剣を振るった。
ヒロはそれを地面にふせて避けてから、クラウチングスタートをするようにそのまま加速してシエルの元に走った。
「シエル?」
シエルは目を瞑っていて、顔はほとんど血まみれだった。
頬を鼻に当てて、息をしているのを確認してから横に落ちている解毒剤をシエルに打ち込んだ。
「ふぅ。」
シエルの顔つきが少し穏やかになったような気がして、ほっとする。
しかし、ヒロも限界が近かった。
ヒロはシエルをそっと寝かせてから、立って刀を構えた。
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