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「ちょっ、なっ。」
咄嗟のことに、一瞬反応が遅れる。
服越しに触れあう胸元を、思いっきり押し返した。
「会長っ。一体なにして!」
き、き、キスっ。なんてっ。
「うるせぇな。てめぇがきもちワリィこと言うからだろうが。誰があんなクソモジャ好きになんだよ。」
......クソモジャ。
まぁ、もじゃもじゃしてると言えばしてるけど。
ていうか、
「え、会長。転校生のこと好きじゃないの?」
俺はこっちの方が気になって。
「あ? 好きなわけねぇだろ、ふざけんな。どこをどう見たらそんなことになんだ。」
「どこを、って。......、どこをどう見てもそうとしか見えなかった。」
それに、愛先輩だって。
「お前がなにをどう見てたとしても関係ねぇ。俺は、あのクソモジャのことなんか好きじゃない。俺が好きなのは、」
「ほんとに?」
たまらず、会長の言葉を遮ってそう問いかける。
これが、夢か何かじゃないことを願いたい。
「ほんとに転校生のこと好きじゃないの。」
「あぁ。」
「......そっか。」
そっか。
俺はたぶん、今すごく嫌なことを考えている。
会長が転校生のことを好きじゃないって知って、ほっとして喜んで。
彼の気持ちを全く考えてない。
きっと彼は、彼の方は俺の思い違いなんかじゃなくて。きっと、
「おい、桜庭。」
「へ? あ、ぁ、はい。」
すぐ傍から聞こえてきた声に我に返る。
あぁ、そうだ。俺、今会長と。
さっきとはうって変わって固い表情を浮かべる会長に、笑みが漏れそうになるのは愛故だ。
俺は、こんな可愛い人を他に知らないから。
「ぁ、桜庭。俺は、」
会長の口が動く。
視線が一瞬、俺の背中へと逸らされた。
その瞬間。
ーーーーカシャ。
響き渡るのは、カメラのフラッシュ音。
二人して、その場に固まる。
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