兄のこと 「もしもし。」 『......あ、篠か。久しぶりだね。』 「うん、久しぶり。元気だった?」 『あぁ、まぁぼちぼちかな。』 そう言いくすり、と笑う兄さんの上品なこと。その表情は、きっと2年前と変わらず綺麗なんだろう。 『それよりもだよ。どうして篠は大きな休みにも帰ってこないの。父さんなんか今年の春休みは泣き崩れてたよ。』 「あー、うん。ごめん、ごめん。」 『思ってないだろ。』 「いやー。」 実際、家に帰らないのに特に理由はない。ただ少しめんどうというだけで。だいたい家と学校が遠すぎるんだ。 車で5時間とか普通に耐えられない。ただでさえ、車酔いがひどいのに。 『まぁ、いい。でも、たまには帰ってきなよ。兄さんも寂しいから。』 「......ん。それで用件は?」 『あぁ、そうだった。えっと、俺は別に伝えなくてもいいんじゃないかと言ったんだけど、父さんが一応と。』 「父さんが?」 父さんが伝えたいこと。 そんなもの、今までの経験上はた迷惑な愛の言葉しか浮かばない。愛は愛でも、それは立派な家族愛だけど。 [*前へ][次へ#] [戻る] |