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「あ、......愛、せんぱい。......会長が」
思わず愛先輩の名前を呼んで、助けを求める。
俺の知らないことだって、愛先輩なら知ってるかもしれない。会長が焦った表情を浮かべていた理由も、ここから。俺から、逃げ出してしまった理由も。
「............桜庭。てめぇ、そんな顔してんじゃねぇよ。」
「せんぱい、」
頬を両手で捕まれ、愛先輩の目線まで下げられる。
「情けねぇ声だすな! 仕方ねぇからとっておきの情報教えてやるよっ。......理巧はどうせ言わねぇんだろうし。」
ふい、と顔をそらしながら言われた言葉。
とっておきの情報?
なにそれ。正直すごい気になる。
だけど、いま俺が一番気になってるのは、ここから居なくなってしまった会長のことで。ここから走ってどこに行ってしまったんだろうか。
会長の居なくなってしまった方へ視線を投げる。
そのまま、たぶん数秒。
俺の頬を掴んでいた愛先輩の手が、勢いよく頬をつかむ。............いや、これ掴むレベルの痛さじゃない。
これっ、絶対つねられてるっ。
「痛い、痛い、いたいっ。」
鋭い痛みに抗議しようと横に振り向けば、怒ったような愛先輩の表情が目に入る。そしてその後ろには、さも当然のように錦の姿。
......なに、こいつ。いつ来たの?
そう言葉にしようと口を開いた直前、愛先輩の手が優しくはなされる。ここで優しくするのなら、そもそもつねらないで下さい、と言う言葉は頑張って飲み込む。
どういてか、愛先輩の鋭い目が、ほんの僅かほんの少し。
優しくなったことに気づいてしまったから。
「おい、......桜庭。」
右手を左手に合わせて、力を込めて握りこむ。唇を噛む力は酷く強いように思える。
なにかを耐えるようなその仕草に、みたことのない愛先輩をみて。
「......お前のことは許せねぇし、やっぱすげえムカつくし。なんでこんな鈍感バカがいいんだよっ! って思うけど。理巧が決めたことだし、しょうがないとしか思えねぇし。だけど、軽い気持ちであっちに行くな。あいつは、」
あいつは、ーーーー。
次に言われた言葉に。
俺は、音を握りしめた。
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