12
「......愛せんぱい。」
「名字で呼ぶなっつってんだろうが!」
「あー、はいはい。すいません。」
「てめえ!」
拳を固く作り、肩を上げた愛先輩の背後にまたもや人影。ゆらゆら揺れて見える銀の色。
「まぁまぁ、愛ちん。そんな怒ることないじゃん。君の名前はとっても似合ってると思うよー。俺も」
「おい、こら錦。てめぇ」
俺から視線を外し、錦を睨みつける愛先輩の顔は驚くほどに険しい。果たして今までに、愛先輩がここまで酷く表情を歪ませたことがあっただろうか。
俺の記憶のなかで、今の愛先輩は一番怒っている気がする。もう、鬼を通りこして鬼神の表情である。
なんか普通にこわい。
「おい、桜庭。」
「......ん?」
愛先輩と錦のバトルを見ていた俺に、少しの吐息。小声で名前を呼びながら、俺の袖の端をくいくいと引っ張る会長に振り返る。振り返りながらーー、
え、ちょっとまって。なに、それ。
真面目な顔でなにやってんの。
なにその、可愛い動き。
と思ったけれど、口には出さない。こんなこと思ったなんて知られたら引かれかねない。
「こいつらがバカやってる内に廊下に出るぞ。愛に捕まったらめんどくせぇ。」
「あ、うん。分かった。」
一つ頷き、会長の手を握りなおす。途端、ぽっ、と赤くなった耳に口元が緩むのが止められない。
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