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「お前、......さっきなに考えてた。」
「ぇ、さっき?」
「......犬飼たちが出ていく前。なんか考えてたろ。」
「あ、あぁ、うん。それは、」
それは、太陽くんのことだ。
太陽くんが会長のことを好きだと言った時、会長が。自分が好きなのはこいつだ、と。
そう言ってくれた時のことだ。
「ん、別に大したことじゃないよ。ちょっと太陽くんのこと考えてただけ。」
「あいつの......?」
「うん。あ、そうだ会長。俺が言うのもおかしいけどさ、太陽くんに会いにいってあげてよ。太陽くんきっとまだ会長のことが、」
好きだよ。
そう、ひとこと。ーーひとこと言うだけなのに。
「っ、.......。」
視線が、感情が。目の前の男から離れない。
その目に、すべてを。俺のすべてを覗かれているような気がして。
「桜庭。」
「な、なにっ。」
名前を呼ばれているのに、呼ばれていないような。変な感覚に声が上擦る。
「お前、ほんとに俺があいつのとこに行ってもいいのか?」
「え、」
「俺のことを好きなあいつんとこに、俺が行っていいのかって聞いてんだ。」
「ぇ、あ、」
はじめて聞く、こちらを突き放すような声に言葉がでない。
太陽くんに、会長が会いにいく。
それぐらいのこと、全然へいきだ。
会長は、俺のことを好きになってくれて。だけど、太陽くんの傍に会長はいなくて。重なる部分が多いから。
偉そうな同情だと分かってるけど、俺は。
「......いいよ。むしろ」
ーー行ってほしい。
その言葉は、重なった会長の唇に邪魔された。
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