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大魔王





この箱庭には、王様がいる。



美しく、強く、それでいて俺様な、孤高の存在。

誰にも媚びることをせず、屈することもない選ばれし者。

常に前だけを見据え、冷静沈着に物事を進めていくみなの頂点。



ーー王様。



そう、みなが口を揃えて呼ぶ彼が、涙を流すことはあるのだろうか。


もしあるのならば、それはきっと。

酷く綺麗で儚いのだろう、と。


あの時の俺はそう思っていたのだけれど。















ーー桜が咲いている。





「うー。こんなところ冬至に見つかったら怒られそう。」



携帯に残る大量の着信履歴を眺めつつ、憂鬱な気持ちを吐き出す。

書類片付けのなか、急にきたメールに風紀室を飛び出したのはいいものの、後のことを全く考えていなかった。


つい昨日会ったばかりなのに、彼に会えると。
そう思ったら止められなくて。



「普通に帰っても怒られそうだけどな。その着信量。」

「おわっ!?」



突如、首筋を撫でたするりとした感触に、その場で飛びはねる。

微妙に熱を持った首筋を手でおさえて犯人を振り返る。


「ちょっ。かい......、理巧。なにするの。」

「てめぇが、ぼーっとしてるのが悪い。」

「別にぼーっとなんてしてません。」


相変わらず、俺より少しだけ高い場所にある顔を睨みつける。

と、理巧はふーん。と一言。



そして、




「......もう。」




酷く楽しげに笑うのだ。

これでは怒るものも怒れない。これですべてを許してしまう俺は、甘いのかもしれないけれど。



「ちょっと寒いな。これ羽織れ。」



たいがい彼も、俺に甘い。




「かい、......理巧。」




強制された名前呼びも、まだ馴れない。ずっと会長と呼んでいたから、自然に名前が出てくるのはまだ難しくて。




だけど、





「錦すごい怒ってたよ。副会長なんて。」




変わらないことよりも、変わっていくことの方が断然多いから。




「あぁ、仕方ねぇだろ。愛が卒業してあいつも暇だろうし。菊地も、」

「うん。......副会長も変わったよね。」




変わる未来に、光を添えて。




「......そろそろ帰るか。」

「うん。」




小さく頷いて、黒い髪から覗く赤い耳に、思わず漏れるのは笑み。

こちらへゆっくりと差し出された手を、ぎゅっと握る。あたたかい。





酷く綺麗で、儚く強い未来はすぐそこにーーーー、








「ねぇ、理巧。」

「あ?」

「............一緒に謝ってくれない?」

「............あぁ。」




その前に、越えなければいけない壁があるのを忘れていた。



我らが大魔王は、どんな顔をして俺たちを迎え入れてくれるだろうか。





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あきゅろす。
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